考えてみたいこと

こうの史代『この世界の片隅に』を読んだ

この前、ある方に教えてもらった、この漫画を読んで、 ちょっとすぐには言葉にならないほどの深い衝撃を受けた。 「この世界の片隅に(前篇)」(アクションコミックス) こうの史代 双葉社 2011 Spitzibara自身の感想は すぐには言葉にならないのだけれど、…

美しい文章 11: 吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘』

『ふぉん・しいほるとの娘(上)』吉村昭 新潮文庫 其扇(そのおおぎ)は、風呂敷包みを背負って道をたどった。引田屋に使いを走らせて男衆に荷物をはこんでもらうこともできたが、その日は風呂敷包みを背負って歩きたかった。家庭の事情で遊女になったが、…

「葬式」再掲

今日、「私らの子」が、 また一人亡くなった。 それで、 09年3月29日に書いた 以下のエントリーを再掲したくなった。 葬式(2009/3/29) 身近な子どもが、また1人亡くなった。 とても重度ではあるけれど元気な子だったのに……と 知らせを聞いて絶句する。 電話…

美しい文章 10:上橋菜穂子『獣の奏者』に描かれた“マジックアワー”

広間の外にひろがる庭園には、広間をかこむように宴席がしつらえられ、真王(ヨジェ)の誕生日を祝うためにおとずれた多くの貴族たちが、その身分に従って着席していた。 つぎからつぎへと運び込まれるごちそうの香ばしいにおいと、咲き乱れる花々の香りとが…

「人材育成を放棄して雇用規制緩和ではブラック企業がはびこる」とPOSSE代表

労働問題を中心に、若者の「働くこと」に関する様々な問題に取り組むNPO、 POSSEの代表、今野晴貴氏へのインタビュー記事が 今月号の『介護保険情報』にあり、今の日本社会の問題を鋭く指摘していると思った。 特に印象に残った個所を以下に。 ……介護現場で…

美しい文章 9: 日本国憲法 第97条

『人間的価値と正義』(牧野広義著 文理閣 2013)を読んだら、 その中に2度も引用されている、これを 「美しい文章」として、ここに書いてみたくなった。 日本国憲法 第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の…

美しい文章 8: 池田理代子『ベルサイユのばら』

時間つぶしのためにふらっと入った書店の雑誌コーナーで、 不意打ち的になんとも懐かしい人に出会って、 心の奥の軟らかいところに、ふわっと甘やかなものがそよいだ。 いや、なに、この雑誌なんですけど。 http://www.amazon.co.jp/Pen-%E3%83%9A%E3%83%B3-…

未知なものの不確かさに耐えて目の前の現実を生きることの希望について

以下の昨日のエントリーに、 今朝Moritaさんからコメントをいただき、 そのコメントに誘発されてお返事を書いていたら、 頭のグルグルが止まらなくなったので、 【論文】研修医は<説得の儀式>や<希望つぶし>で誘導する(2013/5/6) いま一つ、きちんと整理…

NZで同性婚、合法化: 議場に広がりゆくマウイ族のラブソング

特にこの話題を追いかけているというわけでもないのだけど、 気の滅入る情報ばっかり流してしまう当ブログも、 たまにはこういう風を入れて空気の入れ替えをしたいものだと、常々思っているので――。 NZ議会で同性婚を認める法案の投票が行われ、 賛成 77 v…

美しい文章 7:清水義範「バラバラの名前」

マルカーノ修道僧に案内され、我々は僧院長のオーテンシオと対面した。 「ようこそ、パチョレック。あなたが数々の難事件を解決してきていることは、よくきいておりますぞ」とオーテンシオは言った。 「因果の糸はおだまきの、みちのくなれば白松ガモナカ」 …

「失業者にバスを無料で」「障害者を手厚くケアしていた古代人たち」書きました

失業者にバスを無料で(英国) 2013年の年明け早々、イングランド、ウェールズ、スコットランドを走るバス路線の70%で失業者には運賃を無料とするサービスが始まることになった。バス運行企業の大手6社とローカル5社が新たにスタートするサービス。3か月以…

美しい文章 6: 藤沢周平「甘味辛味」

spitzibaraが愛してやまない藤沢周平さんは既に亡く、 ゆえに作品がこれ以上増えないことが恨めしいのだけれど、 周平さんが作家になる前に編集長として 「日本加工食品新聞」に書いたコラム「甘味辛味」から 70篇を収録した文庫を見つけたので、早速にゲッ…

「行動する親」という呪縛

生活書院のHPで毎月初めにアップされているWeb連載 福井公子さんの「障害のある子の親である私たち――その解き放ちのために」の 4回目、「勇気」「運動会」「ケイタイ」「虐待」の4編を読んだ。 http://www.seikatsushoin.com/web/fukui04.html 特に1編めの…

元旦に、今年の自分に贈りたい言葉

新年あけまして、おめでとうございます。 2013年の元旦に、 今年の自分自身に向けて贈っておきたい言葉を、 年末に読んだ『環状島=トラウマの地政学』(宮地尚子)から――。 一方で、市民の教育レベルが全体的にあがり(どんな教育かにももちろんよるが)、…

選挙から元気をなくしている人にお勧めの映画『グレート・ディベーター』

私を含めて、 選挙からこちら、元気を出そうと頭ではあれこれ考えてみるものの、 どうにも気持ちが上向いてこない……という人が多いみたいですが、 そういう人にお薦めの映画を見つけました!! デンゼル・ワシントン監督・主演『グレート・ディベーター』。 …

安藤泰至氏編著による『シリーズ生命倫理学 第4巻 終末期医療』刊行されました

去年、「『いのちの思想』を掘り起こす―生命倫理の再生に向けて」の書評を書かせていただいたのを機に、 今年1月、このブログにご訪問くださったことで御縁をいただいたのが 鳥取大学医学部の宗教学者にして生命倫理学者、安藤泰至先生。 その後、先生がお書…

選挙の夜に

この前読んだ、姜尚中の「在日」の中にあった、 著者が市民運動の師と仰いだ、土門一雄牧師の言葉を――。 ……市民の運動はね、国家権力と対峙するとき、敗北するに決まっているんです。でもそれをただ敗北とだけ受け止める必要はないと思いますよ。負けて、負…

美しい文章 5: 姜尚中「在日」と「あくび」を巡る奇遇

「在日」 姜尚中(集英社文庫) 姜氏の文章についてのみ言えば、 冒頭の深い思いをこめて書かれている個所は魅力的だけれど、 定型句的な湿度の高い形容を伴って平板に書き進められていることも多く、 氏の文章そのものを特に「美しい」と感じるわけでもない…

美しい文章 4: 藤沢周平 「大はし夕立ち少女」

日は変わりなく照っていたが、いつの間にか光が白っぽく変わり地上の物の影がうすくなっているのにさよは気づいた。河岸の道に出たときに、不意に強い風がうしろから吹きつけてきた。さよは身体をあおられて風呂敷包みを落としそうになり、あわてて包みを胸…

「生命学に何ができるか」の「女性と障害者の共闘パラダイム」から「当事者と親の共闘パラダイム」へ 3

(前のエントリーの続きです) 私がこの問題にこだわらないでいられないのは、先に拙著からの引用部分に書いたように アシュリー事件という窓から私が今という時代の世界のありようを見てきたから。 そこに今という時代の底知れない恐ろしさを感じるから。 7…

「生命学に何ができるか」の「女性と障害者の共闘パラダイム」から「当事者と親の共闘パラダイム」へ 2

(前のエントリーからの続きです) 第6章の「障害者と『内なる優生思想』」では、 もう一度青い芝の会とリブとの衝突を振り返りつつ、 内なる優生思想問題が掘り下げられていくのだけれど、 青い芝の会の考え方が簡潔に取りまとめられている個所は、例えば以…

「生命学に何ができるか」の「女性と障害者の共闘パラダイム」から「当事者と親の共闘パラダイム」へ 1

「生命学に何ができるか 脳死・フェミニズム・優生思想」 森岡正博 勁草書房 2002 冒頭の脳死関連の章も大変面白いのだけれど、 今回はとりあえず、ウーマン・リブと障害者運動との間にあったことを知り、 そのうえで考えてみたいことがあってこの本を手にし…

美しい文章 3: 清水義範「苦労判官大変記」

去年、 あまりに希望のない話題ばかり拾うこのブログの空気の入れ替えにと、 「美しい文章」というエントリー・シリーズを思いつき、 2つほど書いて、それきり忘れていたのだけれど、 「短編復活」(集英社文庫)というのを買ってみたら、 前に図書館で借り…

「でも、そうかしら。なんにも考えなくても私はいるわ」

これ、すごい……と思ったので、 とりあえずメモ。 昔、デカルトが、「我思う故に我有り」といいました。思うから、考えるから私が存在しているのだ、と。でも、そうかしら。なんにも考えなくても私はいるわ。窓から入ってくる風を頬に受けて、「あぁ気持ちい…

「英国の社会的包摂:主要メッセージ」書きました

前のエントリー「英国の社会的包摂施策」を書きましたの添付資料です。 社会的包摂:主要メッセージ 1. 排除への取り組みは、サービス利用者をあらゆるレベルで動員することなしには成功しない。排除されている人々と協働する共生産的アプローチが、サービ…

「英国の社会的包摂施策」を書きました

近年、日本でも「社会的包摂」という言葉を耳にすることが増えてきた。ほんの概要に過ぎないが、英国の社会的包摂施策について調べてみた。 英国では2004年から09年まで「全国社会的包摂プログラム(NSIP)」が実施された。ブレア首相が1997年に内閣府に設け…

2009年に、ネットの別のところで書いたものを、 なんとなく、こちらに書き写しておきたくなったので――。 もう2年くらい、蚊をやっている。 象に闘いを挑んでいく蚊。 倒すどころか刺すことすら、できっこないのに 一人で力んで槍を構え 象の周りをぶんぶん…

最近のツイートから「虐待的な親」

最近のツイートから「虐待的な親」 ああ、これ、本当にそうですね。(虐待的な親とか社会は)「私に愛されるように行動しなさい」なんだわ。でも、子どもが誰にどう見えるかなんて意識にもないほど自分自身にとってオモロイことに熱中している姿とか、そうい…

「『いのちの思想』を掘り起こす」の安藤泰至氏がコラム

「『いのちの思想』を掘り起こすー生命倫理の再生に向けて」の編著者 安藤泰至先生が、宗教情報センターHPにコラムを寄稿しておられます。 「いのちへの問い」と生命倫理―宗教に問われているもの 安藤氏が生命倫理学の議論を知って感じた疑問は3つ。 哲学・…

病気の人に向かって言ってはいけない言葉 トップ10

自分が乳ガンと診断された時の、友人とのやり取りの体験から、 Debora Orr さんが、Guardianに。 10 things not to say to someone when they’re ill The Guardian, April 18, 2012 病気の人に向かって言ってはいけない言葉 トップ10 (spitzibaraが乗り移っ…