2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

倫理委を巡る不思議 ⑥親の主張をオウム返しする医師ら

医師らは、倫理委員会での議論では「リスクとメリットを秤にかけてメリットの方が大きいと判断した」と説明しています。しかし、よく考えてみれば、「メリットがこんなにある。それに対してリスクはこんなに少ない。だから(アシュリーへの利益は論理的に考…

倫理委を巡る不思議 ⑤委員長の意識

ところで倫理委の実際の委員長は、ずっと表に出てきませんでした。そのこともまた、Diekema医師が委員長だったのだとの私の誤解を助長したように思われます。しかし、委員長はシアトル子ども病院トルーマン・カッツ小児生命倫理センターのDavid Woodrum医師…

倫理委を巡る不思議 ④Diekema医師の位置

私はこの事件について調べ始めた当初、 Diekema医師がアシュリーのケースを検討した倫理委員会の委員長なのだと思い込んでいました。 メディアでの彼の発言の多くが、 当該倫理委を代表して解説・釈明するといった口調のものだったことから、 そういう予見を…

倫理委を巡る不思議 ③医師らの論文の矛盾

病院サイドからはアシュリーのケースを検討した倫理委についての詳細が出てこない、という話はすでに書きました。医師らの論文も同様です。 ところが、医師らは論文の中で当該倫理委のメンバーについてあたかも報告しているかのようなマヤカシを仕組む一方で…

倫理委を巡る不思議 ②地域の人をはずした理由

WPASの調査報告書添付の同倫理委の職務規定によると、シアトル子ども病院に恒常的に設置されている倫理委員会のメンバーは議長のほか、医療職、他の病院の医療職、病院理事会それから地域それぞれの代表で構成されています。 それに対して、Slon.comの取材に…

倫理委を巡る不思議 ①詳細が出てこない

これまでにいろいろなエントリーで述べてきましたが、この事件に関して病院サイドから公表された情報の中に、アシュリーのケースを検討した倫理委員会についての情報はほとんどありません。たとえば倫理委員会の委員の人数はどうだったのか。委員の構成はど…

親と医師は言うことが違う ④倫理委員会のいきさつ

既に紹介したように、親の要望を倫理委員会に諮った理由について、論文では、成長抑制療法はunconventional でありcontroversial だと思われたので倫理委員会にかけたと書かれています。 ところが、両親のブログで倫理委が開かれたいきさつを書いた部分は微…

親と医師らの対比の構図

資料を読み込みながら医師らと両親の発言をつぶさに追ってみると、そこから浮かび上がってくるのは以下のような対比の構図です。 妙に堂々と自信に満ちた親 vs 妙にこそこそと姑息な医師ら 最も端的に両親の自信を象徴している言葉は、ブログの中で医師らに…

他児への適用を巡る医師発言の変遷 2

1月にメディアの取材やインタビューに対して医師らが繰り返しているのは、おおむね 「自立歩行の可能性がなく重篤な知的障害も併せ持った重症児に対しては、 こうした医療介入を行っても悪いとは思えない」という主張のように思われます。 そのトーンは 「…

他児への適用を巡る医師発言の変遷 1

親への言及の多さの他にも、 もう1つ広く適用することに関連して 論文の中で医師が何度も言及している問題があります。 それはセーフガードの必要性です。 まず「症例報告」の中、 倫理委がrecognize したこととして、 以下のように書かれています。 この患…

論文の結論の不思議

親が「そうだ、アシュリーだけではなくて広く多くの子どもたちにもやってあげればいいじゃないか」と考えを発展させた可能性があるのは、アシュリーのエストロゲン大量投与が完了する少し前の段階ではないかとの推論を前回のエントリーで提示しました。 親が…

親が広く提唱する考えを抱いた時期とは?

「乳房芽切除の理由とメリット」で引用したように、両親は乳房芽の切除という処置はホルモン療法を受けて胸が膨らんでしまう男児に使えばいいと提唱していました。しかし実は、両親が名案だから広く使えばいいと提唱しているのは乳房芽の切除だけではありま…

Diekema医師のもう1つのウソと、そこから見えてくるもの

1月12日以降、医師らはそれまでの隠蔽もゴマカシもウソもどこへやら、あたかも両親の主張する乳房芽の切除のメリットに最初から賛同していたかのような発言を繰り返しています。 ネットに流出したこの事件に関する情報は膨大なものでした。それを読む人に…

乳房芽切除の理由とメリット

続いて、「初期の乳房芽の切除による乳房の生育の防止」。(3つの項目の堂々たる厳密さにも注目してください。) ここでも冒頭、両親は明快に書きます。 授乳するということがないので、アシュリーには発達した乳房は必要ありませんし、そういう乳房の存在…

子宮摘出の理由とメリット

次に「子宮摘出術による生理の不快回避」の理由とメリット。 両親は非常に明快です。短いので直接引用します。 子どもを生むことはないのでアシュリーには子宮は必要ありません。この処置によって、生理と生理に通常伴う出血/不快/苦痛/生理痛がすべて取り除…

身長抑制の理由とメリット

両親のブログでは、医療処置ごとに項目を立てて、それを望んだ理由とその処置がいかにアシュリーのQOLの維持向上に貢献するかが詳細に説明されています。これから3回に分けてそれぞれの説明を眺めていきますが、個々の点について医師らが論文で書いていたこ…

論文内容と倫理委コンセンサスの矛盾

「医師の言うことを否定して見せる親」で述べたように、両親はブログで、これら一連の処置を行ったのは本人のQOLの維持向上のためであり、それ以外は付随的な問題に過ぎないと繰り返しています。いかなる状況であっても自分たちは家でアシュリーをケアし…

static encephalopathy について

Anne McDonald さんは、Seattle Post-Inteligencerに寄せた記事の中で、 自分はピーター・シンガーの友人であり、倫理と障害について議論したこともあると書いています。 にもかかわらず、シンガーがニューヨークタイムズに既に有名になった例の論評を書いた…

Anne McDonald さんの記事

Seattle Post-Intelligencer 誌に6月15日付で、The other story from a 'Pillow Angel':Been there. Done that. Preferred to growという驚くべき体験談と論評が掲載されました。書いたのはAnne McDonaldというオーストラリア人女性。 彼女はアシュリーと…

医師の言うことを否定してみせる親

「親と医師の言うことは違う ③論文の挙げる“なぜ”」で、「アシュリーにこのような処置が行われたのは何故か」について論文に書かれた一節を、両親がブログで否定していることを指摘しました。その箇所によると、このまま成長したら他人に託す以外になくなる…

子宮摘出の本当の理由、もしかして書いたつもり?

前回、論文の「メンスの始まりについても(両親は)心配していた」という1文が論文のどこにも繋がっていないと指摘しました。この点について、もう少し詳しく検討してみます。 論文の中で、あくまで「治療前」との形容つきですが、子宮摘出が初めて出てくる…

親と医師は言うことが違う ③論文の挙げる”なぜ”

これまで、あちこち横道に逸れながらでしたが、「アシュリーはどのような子どもなのか」という点と、「アシュリーに対して何が行われたのか」という点について事実関係を確認してきました。そして、その中から、両親と医師らの言っていることが食い違ってい…

Diekema医師のウソと、そこから見えてくるもの

2004年にアシュリーに対して「何が行われたのか」について、最も気になる点は、やはり論文では2つのことが行われたとする医師らの発言と、ブログで3つのことが行われたとする両親の発言の食い違いでしょう。 医師らの発言を資料で詳細に追っていると、…

grow/growthの多義性と曖昧さ その2

さらに私が、この論争における growth または grow という言葉が意味するものの曖昧さから抱く、もう1つの疑問は、多くの人々が「アシュリーは生涯成長することもなく、赤ん坊のまま」という際のgrow について。 アシュリーの認知・知能の発達は生後3ヶ月…

grow/growth の多義性と曖昧さ その1

以下の4行は当初 「何が行われたのか」のエントリーの最後に括弧で付記していたものですが、その後、この点に関してエントリーを立てることとし、こちらに移しました。 論争の途中で気になったことの1つに、この件では「成長」、「発達」、「成熟」、「背…

親と医師は言うことが違う ②3つの処置の関係

前回のエントリーでアシュリーに対して具体的には何が行われたのかを確認しましたが、行われたことの内容に関する両親と医師らの発言や表現の違いについて、眺めてみたいと思います。 既に指摘したように、医師らの論文は成長抑制のみをタイトルに謳い、アブ…

何が行われたのか

さて、このような障害像をもつアシュリーに対して、具体的には何が行われたのかを確認してみましょう。 一番単純明快に分かりやすいのは、両親のブログに箇条書きにされた部分でしょう。「以下の3つのゴールを達成することにより、大人になったアシュリーの…

医師にとっても透明人間だったアシュリー

ちょっと話が横道に逸れますが、アシュリーの知的レベルに対するDiekema医師の認識レベルを示唆する、非常に興味深い問答を1月11日のCNNのインタビューから、紹介します。 インタビューアーの質問 アシュリーに会って、彼女が家族とやり取りしているのを見て…

アシュリーはどのような子なのか : 「重症障害児」を巡る思い込み

私が事実関係を確認する作業を行った1点目は、 アシュリーがどのような子どもであるかを正確に把握することでした。 まず最初に、論文の症例報告でアシュリーの障害について書かれた部分を確認してみます。 小児内分泌科に紹介されてきた時点で、アシュリー…

親と医師は言うことが違う ①知的レベル

医師らと両親の発言の食い違いの中で、私が重大だと思うものの1つはアシュリーの知的レベルに関する点です。 両親のブログにはアシュリーの知的レベルについて、「生後3ヶ月の時から認知と精神発達能力はずっと同じレベルにある」と書かれています。アシュ…