親と医師は言うことが違う ④倫理委員会のいきさつ

 既に紹介したように、親の要望を倫理委員会に諮った理由について、論文では、成長抑制療法はunconventional でありcontroversial だと思われたので倫理委員会にかけたと書かれています。

 ところが、両親のブログで倫理委が開かれたいきさつを書いた部分は微妙にニュアンスが異なっています。

Since the “Ashley Treatment” was new and unusual, Dr.Gunther scheduled us to present our case to the ethics committee at Seattle Children’s Hospital, which we did on May 5th 2004.

”アシュリー療法“が新しく珍しいものなので、我々がシアトル子ども病院の倫理委員会に対して present our case するようにGunther医師がスケジュールを組み、2004年5月5日に我々はそれを行いました。

まず、両親が要望している医療処置についての認識が違っています。論文執筆者のunconventional やcontroversial と表現する意識に比べて、new and unusual とは、ほほえましいほどに無邪気な言葉の選択ではないでしょうか。前回のエントリーで紹介したthis pioneering treatmentに見られる考案者の自負がここにも感じられます。自ら命名した名称をわざわざ使って「“アシュリー療法”が新しく珍しいものなので……」という口調には、誇らしげな響きすらあるようです。

しかし、倫理委が開かれたいきさつを巡る両者の発言には、療法についての認識以上に重要なニュアンスの違いがあるのです。

両親のブログの表現では、2004年5月5日の倫理委は両親に自分たちの意図を説明する機会を設けるために、それを目的としてセッティングされたものだったように聞こえないでしょうか。

この件を検討した倫理委員会は5月5日の1度しか開かれていないことに注目してください。すでに委員だけの倫理委が開かれていて、その会議の場で「これは親のいうことも聞いてみなければ」という意見が委員の間から出たので、それで両親が説明に招かれた……という段階を経たいきさつではありません。1回きりの倫理委が、両親のプレゼンで始まるように、会合が開かれる前からセッティングされていたのです。しかもブログの文章から読む限り、それは自分たちが直接説明をするためにGunther医師がセッティングした機会だと両親は理解していたようです。