2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

「『いのちの思想』を掘り起こす-生命倫理の再生に向けて」書評を書きました

「『いのちの思想』を掘り起こす-生命倫理の再生に向けて」 安藤泰至編著 岩波書店 読んだ時に、 アカデミックな議論の内容については 正直まったくついていくことができなかったので、 こんなド素人が書評を書いていいんだろうか……と迷った。 でも、読みな…

2011年12月29日の補遺

英国の入院患者の4人に1人は退院しようと思えば可能なのに、地域での介護と看護が緊縮財政でカットされる不安から「ベッドふさぎ」をしている、と。:目先だけの予算削減策って、こんなふうに波及的な影響で結局はちっとも削減にならない……ってこと、多い気…

ケベックの意見聴取、自殺幇助合法化支持は3割のみ

カナダの中でも独自に先進的な動きがあるケベック州では 以下のエントリーで眺めてきたように、去年から 尊厳死に関する特別委員会が州民の意見聴取を行っていました。 カナダ・ケベック州医師会が自殺幇助合法化を提言(2009/7/17) スコットランド、加・ケベ…

英「全国介護者戦略」モデル事業の総括報告書 リーズ大から 2

(前のエントリーの続きです。) ケアラーへの影響 DSプログラムのサービスを利用した18653人のケアラーの内 5050人(27%)からアンケートによって情報を収集した。 10年以上、週50時間以上介護している高齢女性が中心で 上記のようにマイノリティや多様な障…

英「全国介護者戦略」モデル事業の総括報告書 リーズ大から 1

2008年に「全国介護者戦略」が策定された際に 保健省が作った The National Carers’ Strategy Demonstrator Sites (DS) プログラムを リーズ大学の介護と労働と平等の国際研究機関(CIRCLE)が検証するべく行った調査研究の報告書。 New Approaches to Support…

2011年のまとめ:spitzibaraの1年

今年は、大きな出来事が2つもありました。 ① 「アシュリー事件:メディカル・コントロールと新・優生思想の時代」という本を上梓しました。 ② 一般社団法人「日本ケアラー連盟」の代表理事に加えていただきました。(まだ何もしていませんが) 後者のきっか…

2011年のまとめ:ゲイツ財団とグローバル慈善資本主義

まず、アシュリー事件のリサーチを通じて去年までに見えてきた シアトルこども病院・ワシントン大学とゲイツ財団の関係について、以下にまとめました ↓ シアトルこども病院・ワシントン大学とゲイツ財団の密接な関係:グローバルな功利主義・優生主義医療の…

2011年のまとめ:Ashley事件

Ashley事件に関するこれまでのリサーチを取りまとめて 「アシュリー事件:メディカル・コントロールと新・優生思想の時代」という本を上梓しました。 Ashley事件には、2011年の後半は情報がまったく引っかかってきませんでしたが、 それが実際に何の動きも起…

上野千鶴子「ケアの社会学」から考えたこと 2

② 上野先生は高齢者の「家族介護者」だけをイメージして話を進めていきながら、 障害者運動の当事者主権の考え方から学べと説いているように思え、 ここでもまた、障害児・者の家族介護者、つまり主として親(特に母親)は 置き去りにされているんじゃなかろ…

上野千鶴子「ケアの社会学」から考えたこと 1

まず、前置きとして、 某日某所で聞いた介護者支援関連のシンポジウムで印象的だった場面を3つ。 ① 何年か前には介護者支援の必要を訴えると 「要介護の本人が一番の弱者なんだから、介護する方がそんなことを言うべきではない」 と批判され聞いてもらえない…

2011年のまとめ:科学とテクノの簡単解決文化(臓器移植関連を除く)

臓器移植関連はこちらに別途まとめました。 【科学とテクノで簡単解決】 「耳の形でイジメられると可哀そうだから」と7歳少女に整形手術で“イジメ予防”(2011/4/16) 【最先端医療】 欧州司法裁判所、「ヒト胚を使った研究成果に特許認めず」を堅持(2011/10/25…

2011年のまとめ:臓器移植関連

【日本】 初の子ども脳死移植「少年」は自己死ではなく自殺だった!?(2011/4/22) 「脳死・臓器移植Q&A50 ドナーの立場で“いのち”を考える」メモ(2011/11/3) 【中国の死刑囚からの摘出問題】 A・Caplanが、死刑囚の臓器に依存する中国の移植医療ボイコット…

2011年のまとめ:無益な治療

主要な“無益な治療”訴訟はやはり今年もカナダで起きていて、 【Maraachli事件】 1歳児の「無益な治療」で両親が敗訴(カナダ)(2011/2/24) 2011年3月1日の補遺(2011/3/1) 2011年3月5日の補遺(2011/3/5) 呼吸器外し命じられたカナダのJoseph君、セントルイ…

2011年のまとめ:安楽死・自殺幇助合法化関連

安楽死・自殺幇助関連では、 まず、一番ショッキングな話題は、 去年Savulescuの「臓器提供安楽死」論文で言及された 「安楽死後臓器提供」がベルギーで行われた事実が確認されたことと、 オランダで進行した認知症の女性に積極的安楽死が行われたこと ↓ ベ…

2011年12月25日の補遺

ビル・ゲイツ、今度は途上国のために栄養を強化したバナナの開発に。 http://www.gizmodo.com.au/2011/12/bill-gates-modifying-bananas-for-the-third-world/ ビル・ゲイツが立ち上げに関与した次世代原発ベンチャー Terra Powerに長者さんたちの資金が集ま…

アリゾナで、またも“脳死”からの回復例

21歳のアリゾナ大学の学生 Sam Schmidさん。 10月19日に事故で意識不明となり、 脳死と診断されて家族も臓器提供に同意した後で、 生命維持装置取り外しの直前に、突然、指示に従うようになった。 最初は指を動かす程度だったが、みるみる回復して 現在は歩…

カナダのRasouli事件、最高裁へ

当ブログで追いかけてきたRasouli“無益な治療”事件で、 2011年6月の「治療の停止も治療である以上、同意は必要」との上訴裁判所の判決に対して 医師らの上訴が認められ、最高裁へ――。 お馴染み「無益な治療ブログ」のThaddeus Popeは 「世界で最も重大な意味…

2011年12月22日の補遺

PruPublica。ナーシング・ホームを中心に、高齢者が死亡した際に医師が遺体を見ることすらなしに自然死として死亡診断書を書き、虐待や劣悪な介護によるネグレクト、時には殺人までが闇に葬られている米国の実態。調査によると死亡診断書の半数で死因が間違…

2011年12月21日の補遺

ターミナルな患者に余命を聞かれても、医師は答えるのに窮するんだとか。http://www.washingtonpost.com/national/health-science/when-terminally-ill-patients-ask-how-long-they-have-doctors-find-it-hard-to-say/2011/09/23/gIQALTzm4O_story.html?wpis…

「子どもがひとりで遊べない」世界から、人が「能力」と「機能」の集合体でしかない未来へ?

昨日のエントリーに著者の谷口さんからいただいたコメントに刺激されて、 昨日アップしてから後に考えたことを書きたくなり、 どうにもコメントに収まらないほど長くなったので、 シリーズの2としてエントリーに――。 谷口さんが「子どもを一人にしたら育児…

「子どもがひとりで遊べない国、アメリカ」から「メディカル・コントロールの世界」へ

谷口輝世子さんの「子どもがひとりで遊べない国、アメリカ」を読んでいたら、 おや、これは……と、強いデジャ・ヴがやってきた個所があった。 それが、まず個人的に、ちょっと可笑しかったので抜き出してみる。 アメリカの子ども達の肥満対策としてオバマ夫人…

障害者差別としてボツになった「オレゴン・プラン」の基準が、IHMEによってグローバルに復活することの怪

Oulletteの”BIOETHICS AND DISABILITY”(p.114)から 1990年代初頭にOregon州で提唱されたが 連邦政府保健省から米国障害者法(ADA)違反を指摘されてボツになった 「オレゴン・プラン」の基準について。 医療には障害バイアスがあるとの障害者コミュニティ…

Ouellette「生命倫理と障害」:人工内耳と“Ashley療法”について 2

(前のエントリーの続きです) 「考察」の冒頭、 Oulletteがまず整理するのは、 子どもの医療における親の決定権そのものは 障害者コミュニティも生命倫理学も同じく認めており、両者の見解が異なるのは 「親の決定権を制約すべきか」「制約するとしたらいつ…

Ouellette「生命倫理と障害」:人工内耳と“Ashley療法”について 1

Oulletteの“Bioethics and Disability”の第4章「児童期」で取り上げられているのは 「Lee Larsonの息子たちの事件」と「アシュリー事件」の2つ。 前者は、 聴覚障害の子ども達が自己決定できない内からの、 親の判断による人工内耳埋め込み手術のケース。 0…

2011年12月18日の補遺

東日本の被災地にストーブを届けようというプロジェクトがあります。 http://www.humanlink.jpn.org/index.html 英国のthe General Medical Councilから、自殺を幇助した医師への苦情があった場合を想定し、医師の行為の何が自殺幇助に当たるかを明確化する…

Ouelletteの「生命倫理と障害」:G事件と“無益な治療”論について 3

(前のエントリーの続きです) 「考察」の冒頭、ウ―レットが引いてくるのは Philip Ferguson と Adrienne Asch の以下の言葉。 障害のある子どもが生まれるときに起こる最も重大なことは、子どもが生まれるということ。 ある夫婦が障害のある子どもの親にな…

Ouelletteの「生命倫理と障害」:G事件と“無益な治療”論について 2

(前のエントリーの続きです) Gonzales事件の概要は非常に詳しくまとめられているので、 いずれ事実関係の整理をしたいとは思いますが、 これまでに以下のエントリーを書いているので ここでは事件の詳細は省略します。 テキサスの“無益なケア”法 Emilio Go…

Ouelletteの「生命倫理と障害」:G事件と“無益な治療”論について  1/3

米国の法学者、アリシア・ウ―レット(Alicia Ouellette)が6月に出した “BIOETHICS AND DISABILITY Toward a Disability-Conscious Bioethics”について これまで以下の4つのエントリーを書いてきました。 (いったんQと思いこんだら何度見てもQとしか見えず、…

日本の終末期医療めぐり、またも「欧米では」論法

今朝の朝日新聞の声欄のトップに 京都の医師の方の「人工栄養 国民的議論が必要」というタイトルの投稿があった。 5日に報じられた厚労省研究班の人工栄養の指針案をめぐって、 出てくるだろうと予想された通りの内容なのだけれど、 こういう話になるとイヤ…

2011年12月15日の補遺

人口問題には気をつけろ、とWhat Sorts of Peopleに興味深い記事。人口問題が騒がれるのは今に始まったことじゃない、問題は確かにあるが、気をつけなければならないのは「人口が問題かどうか」ではなく「人口抑制で誰がターゲットにされるか」だ、と。:う…