2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧

カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生」

レイ・カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生:コンピュータが人類の知性を超えるとき」 井上健監訳 NHK出版 2007年1月15日 原著は The Singularity is Near: When Humans Transcend Biology 2005年9月 (タイトルを直訳すると「特異点は近いぞ…

トランスヒューマニズムとは?

トランスヒューマニズムとは、一体何なのか。当のトランスヒューマニストたちは、どのように定義しているのでしょうか。 世界トランスヒューマニスト協会(WTA/the World Transhumanist Association)のウェブ・サイトから。 WTAって、なに? 世界トラン…

カフェインだって昔は違法薬物、とSavulescu

2006年のツール・ド・フランスでのドーピングが確認されたことを受けて、 9月23日にCBCニュースのSundayという番組が 「スポーツでのドーピング:このまま定着か?」と題した討論を組み、 「もはや解禁するしかない時期にきたのだろうか」と問題提…

不思議な“アシュリー療法”エッセイと、その著者たち 2

Hastings Center Report March-Apr. 2007 の“アシュリー療法”に関するエッセイの著者は以下の3人です。 S. Matthew Liao Julian Savulescu Mark Sheehan 筆頭著者のLiao はホームページによると、 オックスフォード大学のthe Ethics of New Biosciences の…

不思議な“アシュリー療法”エッセイと、その著者たち 1

Hastings Center Report の3-4月号に、 以下の“アシュリー療法”関連のエッセイが掲載されていました。 The Ashley Treatment: Best Interest, Convenience, and Parental Decision-Making By S. Matthew Liao, Julian Savulescu, and Mark Sheehan 簡単に…

Brosco & FeudtnerのEditorial

(この回、すぐ前のAAIDDから成長抑制批判という記事の補足・解説的なものでもあります。よかったら、そちらと一緒にどうぞ。) Gunther & Diekemaのアシュリーに対する成長抑制に関する論文を掲載したジャーナルの編者は同じ号に以下のEditorialを書い…

AAIDDから成長抑制批判

そっくりいただいたものなのですが、米国知的・発達障害学会(米国精神遅滞学会から改名)AAIDDの学会誌10月号に “アシュリー療法”について「正当化できない非・治療:障害を根拠とする若年者への成長抑制の問題」と題した論文が掲載されました。 Unjustifia…

臓器目的で子ども作って何が悪い、とFost

これまで見てきたように、 Norman Fostはアシュリー療法論争に登場した他にも、 ステロイド論争で大いに有名な人物のようなのですが、 ちょっと古いところまで遡ると、 1991年にも臓器目的で子どもを産むことを巡る論争に名前が出てきます。 例えば、 子…

兄弟間の臓器移植 Pentz講演

”アシュリー療法”論争には無関係な人なのですが、行きがかり上ちょっと興味があったので、ついでに生命倫理カンファレンス13日午後の分科会から、Rebecca D. Pentz のプレゼン「兄弟の健康への手段として子どもを利用すること」を。 PentzはEmory大学Winsh…

医療と福祉は分断されている?

“アシュリー療法”論争で不思議でならないことのひとつは、担当医らの障害者ケアに対する姿勢が、私には障害者福祉の世界の“常識”に反しているとしか思えないこと。 たとえば以下の点。 赤ちゃん扱い。 親と(だけ)の密着。 家庭での介護の囲い込み。 社会参…

親からの生体移植 Ross講演

シアトル子ども病院の生命倫理カンファレンス第1日目午後の分科会から、Lainie Freidman Ross のプレゼンを。タイトルは、 子どもへの臓器提供者としての親 誰がリスクの許容範囲を決めるのか? そこで用いる基準は? Rossのプレゼンは、問題提起を行って会…

トラウマなら、生理より手術体験では?

DiekemaもGuntherもFostも、知的障害のある女性は、何故そんなところから出血するのか、なぜ繰り返すのかという生理のメカニズムが理解できなくて苦しむのだ、と子宮摘出を正当化しています。 Diekemaに至っては、「重症の知的障害者には生理がトラウマにな…

アシュリーのカメラ目線

アシュリーの眼差しというエントリーで、両親のブログに掲載されているアシュリーの写真を紹介したところ、じゅんのすけさんからコメントで「カメラ目線ではないか」とのご指摘をいただきました。 そこで、もう一度両親のブログに戻って、紹介されている14…

科学者の倫理綱領を提案(英国)

科学者と社会の間の信頼構築に向け、イギリス政府の主任科学顧問David King卿・教授が7項目の倫理綱領を提示したとのニュースがありました。 UK science head backs ethics code(BBC 9月12日) Yorkでの英国科学振興協会(the British Association for …

臓器ほしくて障害者の死、早める?

Fost や Paris がもしも移植医だったら、こういうことをしていただろうな……という 米国カリフォルニア州の事件。 New Zeal in Organ Procurement Raises Fears: Donation Groups Say They Walk a Fine Line, but Critics See Potential for Abuses the Washi…

Singerへの、ある母親の反論

Peter Singerが“アシュリー療法”についてニューヨークタイムズに論評を寄せた翌日、インターネットには早くも反響が出ていました。そのうちの1つは、自閉症の子どもを持つ母親が自閉症関連サイトに投稿したもの。 Peter Singer and Precious Ashley by Kris…

アシュリーが美しいということ

初めてアシュリーの両親のブログを開いた時から、ずうぅぅっと頭の片隅にこびりついている、とても単純な疑問。 もしもアシュリーがこれほど美しい子どもでなかったら、この父親はブログに写真を掲載しただろうか……という疑問。 そして、それを「見る側」へ…

アシュリーの眼差し

両親のブログに紹介されているアシュリー。 アシュリーの、この眼差しをよーく見て、考えてほしい。 この子が「どうせ中身は赤ん坊」といわれ、「生涯、どうせ誰とも意味のある関わりなど持てない」といわれ、「犬や猫ほどの知的レベルにも達しない」といわ…

Fostのゴーマン全開 13日午前のパネル

パネルに登場するのは、この日午前中に講演したFost 、Paris、Wilfond、Magnusの4人。 会場からの質問とコメントに4人が応えるという形で進みます。 最初の質問は、 「医師の良心的な決断に反する命令を裁判所が出した例があるか」というもの。 即座にPari…

Verichipスキャンダル&ハイブリッド胚

人体埋め込み用マイクロチップが普及しつつあり、緊急時の医療情報へのアクセスや認知症患者の徘徊追跡に利用が喧伝されているという話を以前紹介しましたが、その販売会社VerichipがらみのスキャンダルをAP通信(9月8日付け)が報じていました。 Verichip…

“アシュリー療法”論争 センチメンタリズムを排除せよ

前回のエントリーで、植物状態の人の体を臓器移植や人体実験に使う道を開こうと、死の再定義が試みられているとする記事を紹介しました。 筆者のWesley J. Smithは“アシュリー療法”についてもNational Review Onlineというサイトに非常に優れた論評An Ethica…

脳死の次は植物状態死?

シアトル子ども病院・生命倫理カンファレンスでのMagnus講演で、障害児の臓器移植に関する予備的コンセンサスが報告され、その策定に貢献した医師・学者の一覧もプレゼンの最後に紹介されました。その中にRobert Veatchの名前があるのを見て思い出した、去年…

障害児の臓器移植 Magnus講演 2

Magnusは講演の中でルシール・パッカード子ども病院(LPCH)での事例を3つ紹介します。 ケース1 10歳。Alagille Syndrome。神経発達障害(NDD)は重度。四肢マヒ。肝機能障害のほかにも臓器に問題がある。母親は知識のある人で、子の命を延ばすためにもQOL…

障害児の臓器移植 Magnus講演 1

シアトル子ども病院トルーマン・カッツ生命倫理センター主催の生命倫理カンファレンス第1日目午前の最後の講演。 タイトルは、「発達に遅れのある子どもを臓器移植の候補者リストに載せるべきか?」 David Magnusはスタンフォード大学の小児科準教授、スタ…

「わかる」の証明不能は「わからない」ではない

「アシュリーには家族が認識できていると両親は思うが、確信は持てない」ということについて、考えてみたいのですが、 DiekemaやFost、Dvorsky、Hughesを初めとしSingerも含めて、「知的機能に障害がある」ということに何らかの偏見と予見がある人たちは、上…

Singerの“アシュリー療法”論評 2

ここでも私が最も気になるのは、 アシュリーの障害像をSingerがどこまで正しく理解してこの文章を書いたかという点。 この論評の冒頭で彼が説明しているアシュリーの状態とは、 アシュリーは9歳。しかし精神年齢は3ヶ月児相当以上には発達していない。歩く…

Singerの“アシュリー療法”論評 1

Peter Singerの「実践の倫理」に触れたついでに、1月26日に彼がニューヨークタイムズに書いた”アシュリー療法“論争に関する論評 A Convenient Truthについて。 彼はこの文章の中で、主に両親と担当医への批判から3つの論点を挙げて、それに反論していま…

P・Singerの「知的障害者」、中身は?

Peter Singerが“アシュリー療法”論争に出てきたから興味を持ったというだけで、 私はSingerについて云々できるほどの何も知ってはいないのですが、 だから、これは本当に素朴な疑問に過ぎないのですが、 Singerの「実践の倫理(新版)」を読んで、どうしても…

「認知症患者」は、みんな「末期」なのか?

先日、ある本を読んでいて、びっくりした箇所。 認知症患者の心の状態を考えれば、道徳観や倫理観をもって何かに従事するのが不可能なのは明らかだ。彼らは世界とのつながりが断たれている。人間であるための条件が、基本的な知的能力テストに合格することだ…

裁判官は安月給だから無責任? Paris講演

7月のシアトル子ども病院の生命倫理カンファレンスについては、“アシュリー療法”論争に関連した人の発言のみ、ちょっと覗いてみようと思っていたのですが、気まぐれに聞いてみたら、裁判所に対する医療界の不信・敵意の根深さを思わせる内容だったので、1…