Brosco & FeudtnerのEditorial

(この回、すぐ前のAAIDDから成長抑制批判という記事の補足・解説的なものでもあります。よかったら、そちらと一緒にどうぞ。)


Gunther & Diekemaのアシュリーに対する成長抑制に関する論文を掲載したジャーナルの編者は同じ号に以下のEditorialを書いています。

Growth Attenuation : A Diminutive Solution to a Daunting Problem
Arch Peidatr Adolesc Med. 2006;160:1077-1078

この中でBroscoとFeudtnerは重症重複障害児の親が直面する苦難と、Gunther& Diekemaが提唱する成長抑制療法を合わせ考えた場合に生じる主な問題点として、以下の4点を指摘しています。

①この療法の効果と副作用も、動機となった「背が低く軽い方が、背が高く重いよりも自宅で介護できる時期が長くなり、本人もより幸福」との仮説も、充分に科学的に検証されていない。

アメリカでは既に外見を目的に体に手を加えることが広く行われている。もしも人の価値を身体的外見以上のものと信じるならば、この点での拒絶は出来ない。

③この療法に虐待の可能性はないか? 優生思想の歴史にかんがみて、重症児の成長パターンに手を加えることには最大限の慎重さが求められる。仮に実施する場合でも、最大のセーフガードと保護が必要。

④人は生物学的な存在であると同時に社会的な存在でもあるのに対して、医療は伝統的に単純な技術的修正を試みてきた。しかし問題の範囲は医療を超えている。必要なのはもっと多くの医療ではなく、もっと多くの社会サービスであろう。

BroscoとFeudtnerは成長抑制療法をill-advised(間違っている)としながら、GuntherとDiekemaが論文発表したことは広く議論の機会を作ったとして評価しています。Editorialが以下のように結論付けられていることからも、編者がわざわざeditorialを書いた意図も、慎重に広く社会の判断を仰ぐことにあったと思われます。

重症障害児における成長抑制の妥当性は、診察室という密室や、組織内に限定された検討委員会だけではなく、障害者の人権運動と、重症発達障害児・者への良質な在宅介護ケアの悲しいほどの貧困という社会政治的文脈の中で裁かれるであろう。……(中略)……大量ホルモン療法が正しい方向なのであれば、コミュニティ全体から一般的承認が得られるだろうし、もしもそうでなくて批判が起こるのであれば、禁止されることになろう。

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私はこのEditorial、タイトルが結構気に入っているのですが、主治医らの論文が「古いジレンマへの新しいアプローチ」というタイトルをつけていたのをもじって、「成長抑制:大きな大きな問題への、ちっこいちっこい解決策」。……とまで、ふざけたトーンではないものの。

座布団3枚あげたい。