アリゾナで、またも“脳死”からの回復例

21歳のアリゾナ大学の学生 Sam Schmidさん。

10月19日に事故で意識不明となり、
脳死と診断されて家族も臓器提供に同意した後で、
生命維持装置取り外しの直前に、突然、指示に従うようになった。

最初は指を動かす程度だったが、みるみる回復して
現在は歩行器を使って歩き、ゆっくりながら話すことができる。

医師は仰天している、と。

‘Brain dead’ student wakes from coma
Azfamily.com, December 23, 2011


仰天している、というけど、
それは自分たちが誤診していたということなんでは……?

今年はなんだか植物状態脳死からの回復事例のニュースが
あれこれと目についたのが印象的だった。

一応、5月に以下のエントリーにこれまでの関連をまとめましたが、


その後もニュースはあったので、それらも含めて近く「2011年のまとめ」エントリーを立てます。


【25日追記】
上記は昨夜、時間的な余裕がないまま1つの記事だけで書いたのですが、
もうちょっと複雑な経過ではないかとのご指摘と
以下の追加情報をある方からいただきました。

まず訂正しておきたいこととして、上記の記事に書かれている
脳死と診断されて臓器提供に家族が同意した」というのは事実ではないようです。
脳死と診断されてはいませんでした。

以下の記事にある母親の証言では、
臓器提供をはっきりと求めた人は誰もいなかったがQOLのことを暗にほのめかされたので、
「いずれ決断しなければならないのだろうと思っていた」という状況だったようです。

それから、Schmidさんがヘリで大きな病院に運ばれた際に手術をしたのは
今年、銃撃されて奇跡の回復を遂げたと話題になったギフォーズ議員の
手術を執刀したドクターの指導教官だったというSpetzler医師。

このSpetzler医師が、
いよいよ生命維持装置を切ろうという時になって、
なんとなく予感があったので、もう一回だけMRIを撮ってみよう、と言いだして、
それで脳死になっていなければ一週間だけ生命維持を続行しましょう、と家族に提案。

S医師には、本人の状態からすれば、どうにも希望はないように見えるものの
当初のMRIで何も致命的なものがなかったことが、引っかかっていたようです。
それが「もう一度MRIを撮ってみよう」という思いつきにつながった。
そしてMRIを撮った日の内に、Schmidさんは指示に従って指を動かして見せた。

手術の時に動脈瘤をクリップしたのが功を奏したのではないか、と言い、
Schmidさんは完全に回復するだろう、と。


ちょっと気になるのは、
脳死」だとはっきり診断されてもいなかったし、
臓器提供の話もはっきりとは出ていなかった、それでも、
生命維持装置のスイッチを切ろうという話が出ていたこと。

この点について、Spetzler医師は
自分以外の人たちがこの患者から生命維持を中止することを考えたのは
それはそれで「理にかなった」ことだったと語っており、
ここでは脳死・臓器移植よりも“無益な治療”判断の方を思わせます。

というか、むしろ、脳死診断や臓器提供への働き掛けと無益な治療判断とが
すべて現場の医療者それぞれの姿勢によって渾然としたグレー・ゾーンになっている、
という可能性がうかがわれるのかも……?

そうしたことも考えるにつけ、Spetzler医師の以下の発言が印象的です。

Ever the scientist, Spetzler wasn't willing to speculate what a comatose patient hears. But he admits, "There are so many things we don't understand about the brain and what happens at the time someone is near death."

科学者としては、昏睡状態にある患者の耳に何が聞こえているか推測でものを言いたくないと言いつつも、「脳についても、人が死に瀕している時に何が起こっているかということについても、我々にはわからないことが沢山ある」



【2014年5月20日追記】
続報あり。
サムさんはリハビリを終えて、大学に復帰し
バスケを楽しむほど回復を遂げている、とのこと。