親が広く提唱する考えを抱いた時期とは?

「乳房芽切除の理由とメリット」で引用したように、両親は乳房芽の切除という処置はホルモン療法を受けて胸が膨らんでしまう男児に使えばいいと提唱していました。しかし実は、両親が名案だから広く使えばいいと提唱しているのは乳房芽の切除だけではありません。

両親のブログのタイトルは多くの人が知っているように、the Ashley Treatment ですが、このブログには副題があることをご存知でしょうか。

Toward a Better Quality of Life for “Pillow Angels”

Pillow Angelsと複数形になっていることに注目してください。「ウチの”枕の天使ちゃん“のより良いQOLのために」ではなく、「世の中の”枕の天使ちゃんたち“のより良いQOLのために」。アシュリーと同じような状態にある世の中の重症重複障害児たちのより良いQOLのために、このブログを立ち上げたと副題は謳うのです。

本文の中でもブログでの情報公開の理由について
寝たきりの”Pillow Angel”たちに同じようなメリットをもたらしてあげられるかもしれない家族を支援するため

ひとえに我々の経験を同じような子どもを持つ他の家族が役立て、彼らのピロー・エンジェルたちの生活が良い方向に変わることを願ってのこと
と書かれています。

この療法が広く受け入れられて、このような(他の重症障害児の)家族にも受けられるようになることを望んでいる
との記述もあります。

つまり、乳房芽の切除だけではなく、ホルモン療法による成長抑制と子宮摘出術を含めた3点セットである”アシュリー療法”を広く世間に広めようというのが、両親がブログを立ち上げたもう一つの大きな理由なのです。父親はメディアの取材に対しても、これと同じことを言っています。”アシュリー療法”というネーミングも、そうした意図から「覚えやすくて検索しやすい名前をつけたかった」ものです。

ところで両親は、2004年にアシュリーに3つの医療的処置を要望した最初から、ここまでのことを考えていたのでしょうか。最初から「これは自分が考えた素晴らしい名案だから、アシュリーにもやって、みんなにも広めましょう」という要望だったのでしょうか。

これは、ちょっと考えにくいシナリオのように思えます。いくらなんでも、いきなりそんな話が出てきたら、医師らにも受け入れられないでしょう。倫理委冒頭でプレゼンを行った際に、何らかの原因で乳腺が肥大する男性には切除手術が行われている事例を持ち出してはいますが、それもアシュリーへの乳房芽切除の妥当性を説くことが目的のようです。やはり2004年当初は「アシュリーに対してこういうことをやってほしい」というだけの話だったのではないでしょうか。そして、実際にわが子にやってみた結果として「案外、多くの人の悩みを解決できる名案かもしれない。広くみんなが使ったらいいじゃないか」と考えるに至ったと考えるのが自然なのではないでしょうか。

アシュリーのホルモン療法は、2004年7月の手術からの回復を約1ヶ月待って開始され、Gunther医師が3ヶ月ごとに診察し各種の検査を行っています。2007年年明け早々のブログでは「ちょうど2年半の治療が完了したところです。この間を通して悪影響は一切観察されませんでした」と書かれています。

やはりある程度の時期は治療経過を見守らなければ親としても心配だったことでしょう。そして、もう大丈夫そうだ、副作用はなかったようだと考えた時、この療法の安全性も確認できたように感じたのではないでしょうか。それが「副作用がないのだったら、アシュリーだけではなく、もっと広く多くの子どもたちのために使えばいいじゃないか」という考えに発展したということは、考えられないでしょうか。もし、そういう段階を踏んで考えが発展したのだとすれば、「アシュリーのため」から「みんなのためにも」へと考えが飛躍した時期は、アシュリーへのホルモン療法が終わりに近づいた頃と見るのが最も自然なように思われます。2年半の療法ですから、2年を過ぎる頃にもなれば、そろそろ副作用もなかったようだと安心するでしょうか。

仮に、両親が上記の推測のように考えを発展させたとすると、その時期は、2006年の夏に当たります。医師らが論文を発表する数ヶ月前です。