倫理委を巡る不思議 ④Diekema医師の位置

私はこの事件について調べ始めた当初、
Diekema医師がアシュリーのケースを検討した倫理委員会の委員長なのだと思い込んでいました。

メディアでの彼の発言の多くが、
当該倫理委を代表して解説・釈明するといった口調のものだったことから、
そういう予見を抱いていたことがひとつ。
そこへ、1月11日のCNNインタビューで「倫理委を率いた」医師として紹介されたことが
決定的な誤解の原因となりました。

やがて両親のブログの文章を読み返しているうちに、
別室で待っている両親の元へ倫理委の結論を告げにきた人物が
「Diekema医師と委員長」の2人とされており、
Diekema医師以外に委員長がいたことが分かりました。

しかし、それでは、なぜ彼はインタビューで「倫理委を率いた」人物を名乗ったのか。
今度はそちらが疑問になります。
CNNは当人の申告通りに紹介しただけでしょう。
自己申告とも事実とも違うのであれば本人が番組の中で訂正すればいいだけのことですが、
彼は訂正などしていないのです。

そしてまた驚くことに、1月4日のBBCでも、
Diekema医師はアシュリーの治療を認めた倫理委のメンバーだったと紹介されています。
この時もDiekema医師はインタビューに応じていますから、
その前に自分を倫理委のメンバーとして申告したものと思われます。
1月5日のNational Public RadioでもDiekema医師は倫理委のメンバーの一人とされています。
それでは、Salon.comの記事にあった、当該倫理委のメンバーの中の「倫理学教授」というのは
Diekema医師のことなのでしょうか。

しかし、Diekema医師はこのケースを論文発表した執筆者の一人。
いわば担当医の位置にいる人物であることを考えると、
彼が「倫理委を率いた」り、「倫理委のメンバー」だったというのは、妙ではないでしょうか。

倫理委に対して検討を申請する立場の担当医が、
倫理委の内部にも足を突っ込んでいたことになります。
まして「倫理委を率いた」とすれば、
初診直後から担当していた倫理カウンセラーが
当日の議論を主導したということにもなりかねないのですが……?

「彼はあくまでも倫理カウンセラーであり、倫理コンサルティングを提供する立場にあった。
一人で担当するには問題が大きすぎたから倫理委でやっただけ。
倫理委のメンバーであっても不思議はない」
という解釈も成り立つのでしょうか。
しかし、それならば今度は、なぜ通常の倫理委ではいけなかったのかが気になります。

さらに、それならば、
中立の立場でコトに当たるべき倫理カウンセラーが担当医然と論文を書いていることが
妙ではないでしょうか。

なによりも、Diekema医師が一貫して両親と全く同じ立場に立ってきたこと、
その一方で倫理委の詳細について巧妙に誤魔化し続けているのも彼であることを考えると、
彼が最初から中立な立場で倫理コンサルティングを提供する立場にあったとは、
考えにくいように思われます。

彼はあのマヤカシに満ちた論文を執筆した人物であり、
1月に論争が過熱してからは病院サイドの広報担当者のような役割を担い、
いわばディフェンスの最前線に立っているのです。
それは、当初からの担当医としての行為なのでしょうか。
それとも病院サイドの倫理上の判断を代表して釈明しているのでしょうか。
まさか、このケースを担当する倫理カウンセラーの役割とは、
当初から、病院サイドの判断に伴う倫理上の障壁を理論武装でクリアすることだったのでしょうか。

Diekema医師は、当該倫理委との関係において、一体どこに位置しているのか。

倫理委の内部にいるのか、担当医として倫理委の外部にいるのか。
それとも、そもそもの初めから、この倫理委には内部も外部もなかったのか。