他児への適用を巡る医師発言の変遷 1

親への言及の多さの他にも、
もう1つ広く適用することに関連して
論文の中で医師が何度も言及している問題があります。
それはセーフガードの必要性です。

まず「症例報告」の中、
倫理委がrecognize したこととして、
以下のように書かれています。

この患者ではjustifyされるものの、将来の患者では成長抑制はケース・バイ・ケースでリスクと利点を注意深く評価した後にのみ考えられるべきである

さらに「倫理の議論」では

成長抑制療法の恣意的な適用に対してガードするためには、適切な適用を保障するためのフォーマルなメカニズムが存在することが適当、いや恐らく必要ですらある。

理想的には、このアプローチ(病院が準備中である検討委員会)は施設内審査委員会によって承認された治療実験綱領と組み合わせられるのがよかろう。

そして、いよいよ締めくくりの結論においても、

望むらくは、施設内倫理委員会の検討を経たのちに、
または施設内審査委員会の審査下にある研究の文脈で……
(専門医の監督の下に行われるべき)

ちなみに施設内審査委員会は倫理委員会とは別物です。
この点については、どなたか専門家の方に解説をお願いしたいところなのですが、
とりあえず簡単に説明すると、

施設内審査委員会は
法的な位置づけ(National Research Actなど?)の中で設置が義務付けられ、
連邦政府の管轄の医学研究・医療施設 (および補助金を受けている研究計画) での
臨床実験の対象となる人の人権の保護および倫理上の問題点の審査を含む
治験実施要綱の全体的審査を行う機関。

それに対して病院内倫理委員会は
設置が推奨されているのみで、
実施状況や活動の質・内容にもまだばらつきがあるようです。

(The American Journal of Bioethics 誌の2007年2月号で、
 総合病院の倫理コンサルテーションについて
 アメリカ初の全国調査の結果が報告されています。)


つまり、上記論文のセーフガードについての言及部分は、
今後考えられるケースについては倫理委員会以上の検討手段を加えて、
もっと慎重に厳密に検討するのが望ましい、
この療法については人体実験と等しいほどの慎重さで検討するべきだと言っているのです。

Diekema医師自身、
シアトル子ども病院のスタッフ紹介ページのプロフィールによると、
同病院の施設内審査委員会の委員長の一人です。
その彼が、アシュリーに行われた成長抑制療法を巡る論文で、
この療法の「恣意的適用」を懸念して、これだけのことを書いていたわけです。

ところが不思議なことに、
年が明けて1月、両親のブログがすべてを表に出してしまった後
医師らの発言からは、このようなセーフガードへの言及は消えてしまうのです。

(次回に続きます。)