Anne McDonald さんの記事

Seattle Post-Intelligencer 誌に6月15日付で、The other story from a 'Pillow Angel':Been there. Done that. Preferred to growという驚くべき体験談と論評が掲載されました。書いたのはAnne McDonaldというオーストラリア人女性。

彼女はアシュリーとほぼ同じ障害像の持ち主で、自分もstatic encephalopathyであるといいます。歩くことも話すことも自分で食べることも出来ない。運動機能は生後3ヶ月児相当。3歳の時に医師から重度(IQ35以下)の精神遅滞だと評価され、施設に入れられました。その後14年間、ベッドで寝たきりの生活を強いられます。12歳の時にも最重度(IQ20以下)の精神遅滞と再評価されました。施設の食事の量が少なく、食事介助の人手も不足していたことから、自分にも栄養不良による成長抑制が行われた、と彼女は言います。

しかし、16歳の時、アルファベット盤を指差してコミュニケートする方法を習った彼女は、2年後にはその方法で弁護士に指示して、14年間暮らした施設を出ることに成功します。その際に、医師は裁判所に対して、背の低さが知能の低さの証であるとの申し立てを行いました。その苦い経験から、彼女は「医師の言うことだからといって何もかも額面どおりに受け取ってはいけないことを学んだ」と書いています。

施設を出てから骨年齢を測ったら6歳でした。通常の低身長の人と違うのは、背が低いだけでなく2次性徴もなかったこと。食べることによって背が伸びて、18歳で思春期を迎えます。19歳で初めて学校へ行き、哲学と美学の専攻で大学を卒業。自分の体験を書いた本はオーストラリアで映画にもなりました。

今は正常な身長と体重。歩くことも話すことも自分で食べることも出来ないけれど、介護者の手を借りて旅行が趣味。サイズはその障害にはなりません。話せない、歩けないというだけで、アシュリーと同じように成長を抑制されてしまった体験から、彼女はアシュリーの親や医師やコメンテーターたちがあまりにも安易に彼女の知的レベルを評価してしまうことに、警鐘を鳴らしています。

彼らのアセスメントの根拠は何なのでしょう? アシュリーには自分が3ヶ月以上の知能があると証明する機会が与えられたのでしょうか? その機会を誰かが与えてくれればいいのにと願いながら何年もベッドに寝たきりだった私のような人間だけが、まるで意識などないかのように扱われることの恐ろしさを知っているのです。

(このブログでも既にアシュリーの知的レベルについてのアセスメントは医師らがその時々で言うことが違い、根拠が乏しいのではないかとの疑問を呈しています。)

近年、言語に頼らないコミュニケーションの方法が開発されているのだから、知能のアセスメントはそれらによってコミュニケーションが確立されて後に行うべきだと彼女は主張します。いったんコミュニケーションの方法が得られれば、教育も評価も可能になるとも言います。

どんな子どもも、話すことが出来ないからといって重篤精神遅滞があると決め付けてはならない

アシュリーに自分自身の声を見つけてあげる、あらゆる努力をすることなしに、あのピローの上に寝かせきりにしておくのは、極めて非倫理的なことです

これだけの体験をした人が、この事件を受け止め、これだけのものを冷静に論理的に書くには、どれだけの思いをされたことか。Anne McDonald さんの努力と勇気に、拍手。

(McDonald さんは記事の中で、static encephalopathy というアシュリーの診断名について、非常に興味深い指摘をしています。それについては、「アシュリーに何が行われたのか」という点で私自身も指摘したかった点でもあり、このあと、別にエントリーを立てます。)