「失業者にバスを無料で」「障害者を手厚くケアしていた古代人たち」書きました

失業者にバスを無料で(英国)

2013年の年明け早々、イングランドウェールズスコットランドを走るバス路線の70%で失業者には運賃を無料とするサービスが始まることになった。バス運行企業の大手6社とローカル5社が新たにスタートするサービス。3か月以上失業状態が続いている人に電車の運賃を半額に割り引くカードが支給される既存の制度を利用し、求職者手当、就労不能手当、雇用と補助手当、所得補助の受給者を対象とする。この新サービスの恩恵を受ける失業者は80万人に上るとされる。

ガーディアン紙の報道などによると、バス会社がこのような思い切ったサービスに踏み切った背景には、労働年金大臣イアン・ダンカン氏と労働党議員のデイヴィッド・ミリバンド氏(党首のミリバンド氏の兄)の呼びかけがあったという。

ダンカン氏は2010年10月にテレビ出演した際に、1時間もバスに乗れば別の町に求人があっても若者が行動しなくなったと批判。「待っていても仕事の方からやってくることはない」「仕事があるなら、それを手に入れるためにそれなりの努力をし、できる限り一生懸命に働くべき」などと語り、バスに乗って職を探しに行くよう促した。その発言には失業者に対する非難と蔑視だと反発する労働組合や野党から、1980年代に自分の父親は30年代に自転車で職探しをしたと言って貧困層の暴動を非難したサッチャー首相の側近、ノーマン・テビット貿易産業相のようだと猛批判が起こった。

その後、昨年7月に発表されたのが、ミリバンド氏が委員長を務めた若者の失業に関するコミッションからの報告書である。報告書は求職者手当を申請する若者が全国平均の2倍に達する“ホット・スポット”を600か所特定。そのほとんどが都市部である一方、コーンウォールやデヴォンなど貧しい地方の州も含まれている。

報告書は一昨年の教育維持手当の廃止によって、そうした州の低所得層の大学生の約2万人が週30ポンドの支給を失ったことなど、政府の支援を「不十分」であるとし、特に交通費の負担について以下のように書いた。「コミッションに寄せられた声には、特に地方に住む若者らが交通費に触れたものが多く、移動コストが教育や雇用への意欲を失わせている可能性がある。例えば、最低賃金で暮らす若者の場合は高い運賃が収入に占める割合は大きく、長期に渡って研修を続けたり無償で働いてみようとする意欲につながりにくい」

ミリバンド氏は「バス会社は大きな利益を出している。地方自治体にも中央政府にも権力がある。それらが力を合わせなければ。競争の激しい労働市場だというのに面接に行こうとすれば、運賃が大問題になるのだから」「英国は若者の失業という危機に直面している。この危機を放置しておく経済的余裕はない。長期的な若者の失業をなくすという政府の目標設定は正しいが、それを実現するためには大きな変革が必要となる」と語った。

またメディアから若者の勤労意欲について問われた同氏は以下のように応えた。「機会はあるのに働く意欲がない若者よりも、意欲はあるのに働く機会がない若者の問題の方がはるかに大きいと思います。働く気がないけど生活はできて当たり前と考えている若者がいるか、と問われれば、そういう若者だって探せばいますよ。でも、そういう問題ではありません」

果たして若者たちは「働かない」のか「働けない」のか――。いずれにせよ、働きやすくするための小さくとも具体的な方策を打ち出していくことが大切な社会的包摂の一環なのだな、と改めて考えさせられるニュースだった。

障害者を手厚くケアしていた古代人たち

胎児のように身体を丸めたまま埋葬されていた遺骨の発掘写真に目を引かれた(12月17日のニューヨークタイムズ)。2007年に南ベトナムのマンバック遺跡から発掘された、4000年前の若い男性だという。遺骨の調査から重症障害のために生前からそういう姿勢で暮らしていたものと推測された。子どもの頃に下半身がマヒし、腕もほとんど使えない状態だったが、マヒしてからも10年ほど生きたとされる。当時の集落はまだ金属を持たず、釣りと狩りで暮らしていた。そういう人々が、この若者をケアしていたのである。

その他にも、イラクで複合的な障害のあるネアンデルタール人(死亡推定年齢50歳)、米国フロリダ州で二分脊椎の少年(同15歳)、イタリアで重症小人症の少年(同10代)、アラビア半島でポリオで24時間介護を要したと思われる少女(同18歳)など、狩猟採集の過酷な生活環境にあった古代人が障害のある人たちを手厚くケアしていたエビデンスが次々に報告されている。という。

これもまた、「包摂」という言葉が頭に温かく浮かぶ記事だった。

「世界の介護と医療の情報を読む」第80回
介護保険情報」2013年2月号