成長抑制WGの論文がHastings Center Reportに

Ashley事件はまだまだ終わってなどいないと
当ブログではずっと言い続けてきましたが、やはり……。

Hastings Center Reportの11月―12月号に
シアトルこども病院が組織した成長抑制ワーキング・グループの論文が掲載されました。


アブストラクトは以下の通りで、
09年1月のシンポでの報告内容を取りまとめたものと思われます。

Our working group sought to engage the underlying ethical and policy considerations of growth attenuation―that is, administration of short-term, high-dose estrogen to close growth plates, thereby permanently limiting height. We hoped to move beyond staking out positions with divisive and polarizing rhetoric about growth attenuation in order to find common ground and better identify and understand the areas of deep disagreement. In this paper, we offer sympathetic accounts of differing views so that those who hold a particular view can better understand others’ concerns. We also reach for a middle ground―a moral compromise based on respect for sustained disagreement rather than on consensus. Most of our group agreed to the compromise that growth attenuation can be morally permissible under specific conditions and after thorough consideration.

とりあえず、このアブストラクトのみから、指摘しておきたい点は以下。

・09年のシンポでも同じだったように
「結論」とはせず「妥協」として、
「成長抑制療法は一定の条件下では道徳的に許容できる」と主張している。

・ただし、その「妥協」については、
「コンセンサスよりも、支持を集めた不同意も尊重したうえでの道徳的な妥協」を選んだと
まったく訳のわからない説明がされている。

・この妥協点に同意したのは Most of our group であって、全員ではない。

・著者は以下のようになっており、

Benjamin S. Wilfond, Paul Steven Miller, Carolyn Korfiatis, Douglas S. Diekema, Denise M. Dudzinski, Sara Goering, and the Seattle Growth Attenuation and Ethics Working Group

同意しなかったメンバーがいるにもかかわらず、
WGの名前が論文著者とされているのはどういうことなのか。

例えばメンバーの一人で障害学の学者 Adrienne Aschは、
AJOBのDiekema&Fost論文へのコメンタリーで
署名したのは議論のプロセスに同意したという意味で
決してその結論の内容に同意したわけではないと述べているが?

・なぜメンバーのうち6名だけが個人名なのか。その他WGに一括されている著者との線引きは?

・また、このWGの議論の進行中に、メンバーでもある
DiekemaとFost他1名が成長抑制は妥当だとする論文を投稿していた事実もあるが?

・要するに、最初から結論ありきで立ち上げられたWGで
思いがけない反論が相次いで支持を集めたために「結論」とすることは不可能となり、
やむなく「妥協」としたものの、実質的には当初の狙い通りに
反論もそれらに対する支持もねじ伏せておいて
「妥協」と銘打っただけで当初の予定通りの結論が
この論文によって提示されている……ということなのでは?



この論文が出てきたことで、ここまでやるかぁ……と、この問題に関する
シアトルこども病院の異様なほどの周到さと執念深さについて
つくづく考えてしまったのだけど、

本当のところ、たいして効果があるとも思えない重症児に対する成長抑制療法が、
権威ある子ども病院が何年にも渡って病院を上げてこれほどの大騒ぎをして、
なにがなんでも世の中に広めていかなければならないほど、
医学的に見て、たいそうな医療介入なんだろうか。