成長抑制WGのHCR論文:とりあえず冒頭のウソ3つについて

シアトルこども病院のWilfond医師を主著者に、
成長抑制ワーキング・グループが書いたことになっているHCRの論文
Navigating Growth Attenuation in Children with Profound Disabilities
Children’s Interests, Family Decision-Making, and Community Concerns
について、前にこちらのエントリーでざっと要点だけ拾っていますが、

今回、せっかく論文全文を読んだ以上はまとめなければ……とは思いつつ、
ぜーんっぜん、そういう気分にならない……。

というのは、読むまでもなく、想像通りの展開で、

全体に繰り返されているのは
グループの中で出た懸念・批判の声を1つ1つ挙げ、
それに理解を示すフリをしつつ提示した後に、
However,(しかしながら……)と逆の立場に転じて論駁し、
結局は前者の懸念をねじ伏せる、または却下する……というパターン。

全文、ひたすら、その繰り返し。

もちろん、全体としての正当化の論理は、
これまでDiekemaやFostらが展開してきたものと全く同一。
(その内容は、文末にリンクした2つの論文に関するエントリーに)

例えば、

グループの中には、身体の統合性を侵すから成長抑制はダメだという人もいた。
However, しかしながら、身体の統合性そのものが、
この治療は自然か否かと問うに等しい曖昧な概念でしかない。

セーフガードは重要だとWGは考えたし、
やはり法定代理人(guardian ad litem)や裁判官の判断が必要だという声もあった。
However, しかしながら、裁判所は当該家族とは関わりがないので判断できないし、
これまでの生命維持の差し控えを巡る判断でも偏っていた(ここはFostのホンネがちらり)、
それよりも多様な立場の人がいる倫理委員会の方が適任。

……などなど。

どこが「反対する立場への理解を深めてミドル・グラウンドを模索」なんだか。
WG内の成長抑制反対の立場なるものには「一応耳は傾けたフリはするけど採用せず却下」が
最初から既定路線、

WGそのものが「反対意見も含め議論を尽くしました」というアリバイ作りに過ぎないくせに。


ただ、冒頭、06年のGunther&Diekema論文について書かれた部分に
どうにも腹にすえかねる大ウソが並んでいるので
そこのところの3つのウソだけ、とりあえず指摘しておきたい。

① 06年のあの論文が
「成長抑制の倫理的なジャスティフィケーションを提示した」そうな。

これはウソです。
そんなものは提示されていません。

「重症児が背が低くなることから受ける害というものをいったい想像できるだろうか」などと
利益vs害の誠実な比較考量の必要すら切って捨て、歴史が求める慎重も
「過去に虐待があったといって利益のありそうな新療法を模索してはならない理由にはならない」と
切って捨てただけでした。

② 「論文著者らは、アシュリーの最終成人身長が予測される5フィート4インチではなく
だいたい4フィート6インチに抑制されるだろうと予測した」というのも、
郵便ポストだって山の紅葉だって恥じ入るわい! くらいに真っ赤っかな大ウソ。

John LantosがAJOBのコメンタリーで指摘しているように、
「身長を抑制する目的を謳いながら
肝心のAshleyの身長についてパーセンタイルが挙げているだけで
実際の身長、骨年齢のデータが挙げられていない、
最終身長がいくらになると見込んでいたのかの予測データも出てこない」のが真実。

③ さらに、07年に立ち上げられた親のブログが
「障害者の権利と家族支援の団体から強い批判を浴びた」。

この点は11月30日からネットを含むメディアで始まったと思われる
成長抑制キャンペーンでも繰り返されているウソですが、

批判は障害者運動の側からだけでなく、
医師や生命倫理学者、法学者、宗教関係者からの批判も多数出ました。

障害当事者らがこの事件の政治的利用をもくろんでいるだけだというのは
Ashley父やDiekemaらが当初から盛んに描いて世間に提示してきた偽りの構図に過ぎません。

しかし、ここで再燃する“論争”では、
またぞろ世の中の人たちは、そういう誘導にひっかかるのだろうなぁ……。

やっぱりメディアを動員する権力を持っている人には誰も抵抗できない――?




(エントリーは、コメンタリー募集のため9年4月に公開された論文を元に書いています)