ダウン症人形の是非

父が思いがけない急展開で人工呼吸器装着となったため、ここ数日
自分の頭と心の整理の必要からコメント不可にて個人的な体験を書かせていただいておりましたが、
父は一応の落ち着きを見ました。

ご心配いただいた方々、ありがとうございました。

        
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ダウン症児の人形が多数作られて世界中で出回り、好評だとのこと。

Disability dolls become more popular
Are Down’s syndrome, blind and chemotherapy dolls a blessing or just a sick joke? Supporters say they help children
The Times, June 25, 2008

ダウン症児の外見的な特徴を詳細に再現してあり、その他にも
義肢をつけた人形、
歩行器を使う人形、
補聴器をつけた人形、
盲導犬を連れた盲目の人形、
髪がなく、鎖骨下に留置カテーテルのついた化学療法中の人形(Chemo Friends)
手術を受ける子どもへの説明用の内蔵位置の分かるテディベア(Anatomical Teddy)

が、最も売れているのはダウン症児の人形で、製造サイドは
ダウン症児に自己同視できるオモチャを与え、自尊心を高める、
おもちゃのメインストリーミングを行い
ダウン症に対するスティグマを解消する意図だとのこと。

ドイツの幼稚園ではインクルージョンの理念を教える授業に使われている例も。

現実離れした体形をスタンダードとして女の子の間に根付かせていく
現在のセクシュアルな人形デザインにこそ問題があり、
その解毒効果があるとする意見や
(しかし、それはもともと障害とは無関係に解決すべき別問題でしょう。)

実際にダウン症の子どもに与えたら
やっと自己同視できる人形に出会えて目を輝かせたという話がある一方で、

英国のダウン症協会からは
ノーマライゼーションインクルージョンにつながることは何でも歓迎するが、
ダウン症の特徴を正確に捉えていない人形も出回っているのが問題という点と、
研究されたことがないのだから、ダウン症児自身がどういう捉えかたをするかについては
知りようがない、という2点が指摘されています。

また、障害のある子どもたちは自分を「みんなと同じ」と考え
むしろ一般の子どもと自己同視したいのではないかとする意見も。

ダウン症児の親2人の長文の意見が記事の後半に添えられているのですが、
私は最初の母親の方の意見にとても共感を覚えました。

人形はファンタジーの世界に遊ぶためのオモチャで
だからこそ現実にはありえない体形のバービーで子どもたちは遊ぶというのに、
ダウン症の人形だけがリアルに作られて、生気が感じられない
その不気味なほどのリアリズムと細部へのこだわりに違和感を覚える。
ダウン症の人形で遊ぶダウン症の人だけの世界で娘は暮らしたいなどと望んでいないし、
身体の特徴でもって自分を定義して欲しいとも思っていない。

もう1人の父親は、
ダウン症の人は人であって、症候群そのものではない、
その意味で人形はひどいもの(horrible)だけど、その背景にある考えはよい、と。

     ―――――

記事を読みながら、なんとなく私の頭に浮かんだのは、

ダウン症児人形をいいアイディアだと思い、
それがダウン症の子どもたちのためになると本気で賞賛できる人のグループと、
強烈な違和感・不快感をこの人形に覚える人のグループは、

“Ashley療法”を名案だと考え、重症児のQOL向上に資すると称揚するグループと
人権侵害だと違和感・不快感を覚える人のグループとに
もしかしたら重なるんじゃないかなぁ……ということ。

人々が障害のある人の"違い"に向ける眼差しから
デリカシーというものがどんどん消えていく、という気がする。

(「デリカシー」という言葉では拾いきれない何か、なのだけど、
 今のところ他の言葉にならなくてもどかしい、説明が難しい、でもとても大切な何か。)

その消え方に、私はやっぱり科学とテクノロジー
合理的なだけのものの見方への偏向を感じてしまうのだけど。



ちなみに、
Downsyndromedolls.com で購入できるダウン症人形7種はこちら

目下アクセスが集中して開きにくくなっていますが、
Downi Creation が非営利で製造販売している
8つのバリエーションはこちら

(非営利だというこちらの会社のダウン症人形の特徴が解説されているページを見ていると、
 こんなもの、ステレオタイプの再生産以外なんでもないじゃないか……と不快になった。)