ダウン症スクリーニングでShakespeare「技術開発と同じ資金を情報提供に」
10月28日に取り上げた以下のニュース
ダウン症胎児急増するも出生数は減少(英)に、
Ashley事件関連を皮切りに当ブログで何度か発言を取り上げてきた英国の障害学の学者
Tom Shakespeare氏が当日の the Guardian紙で反応していました。
ダウン症胎児急増するも出生数は減少(英)に、
Ashley事件関連を皮切りに当ブログで何度か発言を取り上げてきた英国の障害学の学者
Tom Shakespeare氏が当日の the Guardian紙で反応していました。
Shakespeare氏は、まず、自分は基本的には、十分なICの結果としての女性の選択権を尊重するし、
ダウン症の子どもが生まれたら、どうしても育てられない事情がある人もいることも理解している、と
前置きした上で、
ダウン症の子どもが生まれたら、どうしても育てられない事情がある人もいることも理解している、と
前置きした上で、
この情報のように統計が出してきた数字だけを見ていたのは
現実に生身の人間に背負わされている精神的・肉体的コストは見えないと指摘し、
おおむね、以下のように述べている。
現実に生身の人間に背負わされている精神的・肉体的コストは見えないと指摘し、
おおむね、以下のように述べている。
しかし、血液検査で陽性と出て羊水穿刺を受ける人の95%は陰性だと診断されるのだから、
血液検査が普及したことによって、多くの妊婦は無用の不安と検査リスクを負わせているのである。
血液検査が普及したことによって、多くの妊婦は無用の不安と検査リスクを負わせているのである。
望まない妊娠をした女性が早期の妊娠中絶をするのとは話も違うしリスクも違う。
望んだ妊娠で、胎児の胎動が感じられるほどの段階に至ってからの決断である。
このような決断を迫られる夫婦の苦るしみについては、もっと研究が必要。
望んだ妊娠で、胎児の胎動が感じられるほどの段階に至ってからの決断である。
このような決断を迫られる夫婦の苦るしみについては、もっと研究が必要。
もともと自然の摂理によってダウン症候群の胎児は流産しやすいようにできているのだから、
自然に起きた流産の苦しみと、中絶を選ばなければならない苦しみの、
一体どちらが大きいのか、比較してみる研究も必要だろう。
自然に起きた流産の苦しみと、中絶を選ばなければならない苦しみの、
一体どちらが大きいのか、比較してみる研究も必要だろう。
どこからも話題にされないし、
NHSも、検査の制度を上げることばかり考えている人たちも、一向に興味を示さないが、
検査を受けた夫婦へのインタビューなど、それなりにいい仕事をしているつもりである。
NHSも、検査の制度を上げることばかり考えている人たちも、一向に興味を示さないが、
検査を受けた夫婦へのインタビューなど、それなりにいい仕事をしているつもりである。
で、Shakespeare氏の結論は、
“Ashlely療法”には反対だった。
しかし自殺幇助合法化、死の自己決定権は支持している。
(詳細は文末のリンクに)
しかし自殺幇助合法化、死の自己決定権は支持している。
(詳細は文末のリンクに)
で、この文章を読む限り、
ダウン症児のスクリーニングに文句をつけている理由は
そこに生じる親の精神的・肉体的な負担のみのようだから、
どうやらダウン症児が生まれないように選別することそのものは
安全性と検査の精度が保証される限りにおいて、
女性の選択権を前提に支持しているように思われます。
ダウン症児のスクリーニングに文句をつけている理由は
そこに生じる親の精神的・肉体的な負担のみのようだから、
どうやらダウン症児が生まれないように選別することそのものは
安全性と検査の精度が保証される限りにおいて、
女性の選択権を前提に支持しているように思われます。
それとも、診断技術の開発はとめようがないから
それなら、せめて、ということなのでしょうか。
それなら、せめて、ということなのでしょうか。
もちろん情報提供とカウンセリングを充実する必要については
私も同意するけれども、
私も同意するけれども、
その情報提供は、
ダウン症の子どもは生まれてきても不幸になる、
ダウン症の子どもが生まれた家族は大変な苦労をして不幸になるに決まっている、という
ステレオタイプではなく、現実のダウン症の人と家族の姿をきちんと見て
正しい知識に基づいて選択してほしいという意図なのだとしたら、
ダウン症の子どもは生まれてきても不幸になる、
ダウン症の子どもが生まれた家族は大変な苦労をして不幸になるに決まっている、という
ステレオタイプではなく、現実のダウン症の人と家族の姿をきちんと見て
正しい知識に基づいて選択してほしいという意図なのだとしたら、
ダウン症を、
検査さえ安全で、中絶を選択する心理的負担さえ軽減できれば
世の中から排除するに越したことがないものとみなすことと
そういうスタンスでの情報提供とは、彼においては、どう相容れているのだろう。
検査さえ安全で、中絶を選択する心理的負担さえ軽減できれば
世の中から排除するに越したことがないものとみなすことと
そういうスタンスでの情報提供とは、彼においては、どう相容れているのだろう。
自殺幇助合法化支持論や、それに続くCambell氏や Drake氏との論争でも感じたのだけれど、
Shakespeare氏は、個人の選択権という範囲でしかものを見ていなくて、
社会全体の障害に対する姿勢や価値観へのインパクトという部分を
見落としているような気がしてならない。
(詳細は文末のリンクに)
Shakespeare氏は、個人の選択権という範囲でしかものを見ていなくて、
社会全体の障害に対する姿勢や価値観へのインパクトという部分を
見落としているような気がしてならない。
(詳細は文末のリンクに)
そして、そのことは、彼の障害学を
自己選択・自己決定の可能な障害者だけの小さな障害学に終わらせてしまわないのかな。
自己選択・自己決定の可能な障害者だけの小さな障害学に終わらせてしまわないのかな。
出生前遺伝子診断や遺伝子操作で出来ることが増えるにつれて、
病気や障害そのものが「あってはならない」ものに変わっていくことの意味やインパクト、
親が子を選べるようになることが親と子の関係性に及ぼすインパクトなど
もっと大きな枠組みで捉えなければならない問題があるような気がするし、
病気や障害そのものが「あってはならない」ものに変わっていくことの意味やインパクト、
親が子を選べるようになることが親と子の関係性に及ぼすインパクトなど
もっと大きな枠組みで捉えなければならない問題があるような気がするし、
科学とテクノで可能なことが増えたために
生身の人間が個々に生きていく中で、より多くの苦しみを抱えることになる、という
皮肉な構図は、もっと安全で精度の高い検査が開発されても変わらないし、
生身の人間が個々に生きていく中で、より多くの苦しみを抱えることになる、という
皮肉な構図は、もっと安全で精度の高い検査が開発されても変わらないし、
(力の強い者は、より他者の苦しみに対して無関心・無感覚になり、
力の弱い者だけに、その苦しみがより多く背負わされていくという構図になるために
表面的には誰も苦しんでいないかのように言い繕われるのかもしれないけど)
力の弱い者だけに、その苦しみがより多く背負わされていくという構図になるために
表面的には誰も苦しんでいないかのように言い繕われるのかもしれないけど)
科学とテクノで可能なことが増えれば増えるほど、
人間はより深く欲望に執着し、我執に捉えられて、より苦しむだけなんじゃないんだろうか。
人間はより深く欲望に執着し、我執に捉えられて、より苦しむだけなんじゃないんだろうか。
欲望さえ満たせれば幸福になるのではなく、
本当は、むしろ欲望にしがみついていく手を離し(「私の中のあなた」のlet go ですね)、
欲望への執着から開放されることによって、
人は真の意味で幸せになるのではないんだろうか。
本当は、むしろ欲望にしがみついていく手を離し(「私の中のあなた」のlet go ですね)、
欲望への執着から開放されることによって、
人は真の意味で幸せになるのではないんだろうか。
【Shakespeare関連エントリー】
ShakespeareのAshley療法批判(1月 Ouch!)(2007/12/14)
Tom Shakespeareが「自殺幇助合法化せよ」(2009/3/15)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 1(2009/7/9)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 2(2009/7/9)
ShakespeareのAshley療法批判(1月 Ouch!)(2007/12/14)
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【選別的中絶・情報提供関連エントリー】
選ばないことを選んだ夫婦の記録(2007/11/4)
「ダウン症だから選別的中絶」のコワさ(2007/11/12)
周産期に障害・病気情報提供を保障 法案にW・Smith賛同(2008/4/16)
障害胎児・新生児の親に情報提供を保障する法案(米)(2008/6/1)
障害胎児・新生児の親に情報提供保障する法案つぶれる(2008/7/29)
「中絶決断に情報提供不要」ヒト受精・胚法議論(2008/6/1)
羊水穿刺より侵襲度の低いダウン小検査、数年以内に(2008/10/8)
出生前後の障害・病気診断に情報提供を義務付け(米)(2008/10/9)
出生前診断をショーバイで語るとこうなる(2008/11/21)
英国でダウン症児の出生数が増加傾向(2008/11/24)
「障害児については親に決定権を」とSinger講演(2008/12/26)
出生前遺伝子診断で「あれもこれも調べたい」って?(2009/2/2)
ダウン症の安全確実な出生前検査まもなく米国で提供開始(2009/2/25)
非侵襲出生前診断の倫理問題をJAMA論文が指摘(2009/5/28)
ダウン症アドボケイトと医療職団体が出生前診断で“合意”(2009/7/1)
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