「息子には納税者になって欲しい」というダウン症協会幹部?

前のエントリーで読んだ6本のPalin関連記事の中で
Fox ニュース(電子版)が掲載していたAP通信の記事が
なんだか気持ちに不快な引っかかりを残した。

Foxと言えば共和党寄りというのは周知だから、
記事タイトルが「Palin障害児の親の希望をかきたてる」というのは分かる。

(APとかAFPとかの共同電の場合、
 同じ内容でもタイトルは掲載各社で違っています。)

記事の内容からすると「希望」のポイントは
選別的中絶問題でプロ・ライフの立場に強力な味方が出現したこと。
これも、そういう捉え方は当然あると思うので、わかる。

(ちなみに、この部分の記述によると、
これまで35歳以上の妊婦にルーティーンで行われてきたダウン症診断が
 産婦人科学会の勧告で2007年から年齢を問わず妊婦の希望で行われることになり、
プロ・ライフ派は危機感を抱いているとのこと。)

なんだか不快な引っ掛かりになるのは、
この記事がダウン症候群の子どもを描く時に
そこはかとなく漂うネガティブな匂い。

それから、Los Angelesダウン症協会の幹部の(一見?)不用意かつ無神経な言葉。

Palin raises hope for parents of disabled kids
AP (The Fox News), September 8, 2008


記事は
LAのダウン症協会幹部であるHeidi Mooreさんとダウン症の息子さんへの取材を
中心に書かれているものなのですが、

冒頭の導入部分でいきなり描かれているのは
年齢相応の能力を獲得することがダウン症の子どもにとって如何に難しいかという話。

Heidiさん自身が
「平均レベルを身につけるのはエベレストに上るようなものです」と語り、
セラピストの力を借りながら一家が苦労してその山登りをしてきたこと、
その間には15回もの手術が必要だったことが述べられます。
(手術の回数と発達の遅れに本当に直接的な関係があるのかなぁ……?)

そういう障害のある子どもを産んだ行為が世間にはなかなか理解してもらえない、
医療も教育も行政も進んでいることが知られていない……
というのがダウン症児の親の悩みだったけれど、
Palinの登場で同じ思いを知っている親を政権の中心に送ることが出来る、
ダウン症に対する世の中の意識を変革することができると
親たちは喜んでいる、と。

Heidiさんは現在29歳の息子について
記事の最後に次のように言っています。

「この子を見てやってください。
 年齢相応に字が読めるし、自分の名前も書きます。
 ピアノだって弾くんです。
 宇宙飛行士にはならないかもしれないけど、
 学校の先生のアシスタントとか、ミュージシャンにはなるかもしれません」

そして、
「息子には、健康で幸せで生産的で、ちゃんと税金を払う社会の一員になってほしい」


私が引っかかるのは「年齢相応」、「生産的」、「税金を払う」といった言葉なのですが、
29歳で「字が読める、自分の名前を書く、ピアノも弾ける」ことを
「年齢相応」と表現するのも無理があると思う。

ダウン症協会の支部幹部を務めるような人が
本当にこのように「能力重視」、「定型発達重視」の考えを持っているものだろうか。
「社会で何者かになる」ことが子どもの存在価値のようなものの考え方をするだろうか。

もしも本当にこの通りの発言だったのだとしたら、
我が子の能力だけを基準に語らず、
いろんな障害像の人がいることをわきまえてモノを言ってもらいたいなぁ……とは思うものの、

その一方で、
案外に記者の方で相手の発言を自分の予見に沿って曲解して書いたとか、

記者の誘導的な質問に、Yesと答えたことから
質問の内容まで勝手に補った発言が創られてしまったとか、

または記者の考えや感覚と重なる文言だけが断片的に引用されたために
結果的にHeidiさん本人が意図しなかった文脈に乗せられてしまったのでは……?

……などとつい勘ぐってしまいたくなるところが、
なんといっても一番不快な引っかかり。