障害者への医療の切り捨て実態 7例 (米)

アシュリー事件で詳細な調査を行ったWPAS(現DRW)を含む
全米の障害者の人権擁護ネットワーク、NDRNから
“アシュリー療法”、強制不妊、治療の一方的停止と差し控えを批判する
大部の報告書が出たことと、その冒頭の批判声明について、
以下のエントリーで紹介してきました。



“アシュリー療法”と強制不妊についても、
書いておくべきことはいくつかあるのですが、

この報告書を読んで、最も驚き、心が騒いだのは
いわゆる“無益な治療”論による障害児・者の医療の切り捨てが
既にここまで来ているのか……という事例の数々。

とり急ぎ、報告書の27ページから30ページにかけて紹介されている7つのケースについて。


Amelia Rivera事件:知的障害を理由に腎臓移植を拒否(2012年1月)

この事件は当ブログでも取り上げており、詳細は以下のエントリーに ↓
「知的障害があるから腎臓移植ダメ?」 フィラデルフィアこども病院(2012/1/18)


薬の副作用治療のはずが栄養も水分もなしの緩和ケアに(WA州)

知的身体にも障害のある若い男性が、
精神科薬の副作用の治療で入ったナーシング・ホームで
不当にホスピスケアに切り替えられ、餓死させられそうになったケース。

精神科薬の副作用で重大な神経障害を起こし、入院を経て
薬の副作用の治療目的でナーシングホームに入った。

ところがホームでは“debility NOS (特に分類されない虚弱)”と診断され、
ホスピス・サービスへ切り替え、栄養と水分の供給を行わず、
男性はそのまま死なされることになった。

DRWの調査員が訪問し、本人がうめき声を上げているのは空腹のためだと訴えても、
スタッフはどうせ何も分からなくなっているとして相手にしなかったので、
調査員は男性に眼でペンを追わせて意識が完全であることを証明し、
治療計画の変更を迫った。

その結果、男性には適切な栄養とリハビリ・サービスが供給され、
さらに通常治療に切り替えて口から食べるよう促したところ
男性は体重とともに身体能力を取り戻し、担当医は「奇跡の回復だ」と驚いた。


法定代理人が本人の意思を無視してDNR指定(ND州)

人格障害とアル中で腎臓障害のある男性 Waldo (40)が
精神病院と治療施設と監獄とを行ったり来たりして
行動が改まらないことに業を煮やした法的代理人(法人)が
もはや改善の見込みも、支援を受けて自立生活を送れる見込みもないとして
Waldo を本人の意志に反して“no code(蘇生無用)”に指定した。

NDP&Aが介入し、裁判所でヒアリングが行われ、
弁護士に相談した代理人が、本人の意思を尊重することに同意した。


78歳、知的その他の重複障害あるから大腸がん手術ダメ(RI)

ロードアイランドの入所施設で暮らす78歳の男性に大腸がん手術が必要になり、
州法に基づいて施設関係者が州に対して申請を行い、
手術を受けなければ男性は1年以内に死ぬとの予後情報を添付したが、

外科医は、これほど重い障害がある患者を延命させる理由はない、と反論。

本人は障害のために言葉を持たないが、幸いなことに
本人は生きていることを喜びとし手術を受けたいと希望していることを
施設職員が確信していたために、

そのことを医師に伝え、信じてもらうことができた。

それらを前提に考えれば、
手術の利益はリスクを上回ると外科医も考えを変えて
男性は手術を受け、その後2年間生きた。


自己決定能力があるのに家族としか意志疎通を図らない病院 (OH州)

本人に自己決定能力があるので代理人がいないケースで
病院の緩和ケア病棟に入院させられてしまい、人権が侵害されているとして
ケア提供者から連絡を受けたオハイオ州の人権擁護団体(OLRS)が介入した。

病院側は言語障害のある本人との意思疎通をまったく試みないまま
家族の意向に沿って、症状を悪化させるとの理由で栄養と水分を中止していた。

OLRSは病院の危機管理課に連絡を取り介入を求めると同時に、
セカンド・オピニオンを求めた。

その結果、セカンド・オピニオンは当初の診断と変わらなかったが、
病院が積極的に本人に意思確認を図るようになった。
また姉(妹?)が代理人に任命され、彼を
緩和サービスのあるナーシング・ホームに移した。


遠方に住む無関心な代理人が「検査も治療もしないで」 (IL州)

ナーシング・ホームの管理者からの通報で
内臓出血を起こしている入所の女性について
もう何年も面会のない遠方在住の代理人
これ以上の検査も治療もしないよう求めてきたということだったので、

代理される人への虐待やネグレクトが疑われる場合の緊急代理人制度について
EFEから情報提供を行い、施設側がその手続きを行って、
州から緊急代理人が任命され、女性に救命治療が行われた。


若干20歳に医師が「褥瘡も障害も重すぎるから、治療は無益」 (ワシントンDC)

John Smithさんは若干20歳。
2010年6月11日に、感染を起こしてステージⅣとなった褥そうと
もともとの骨の感染症からくる骨髄炎の治療のため、入院した。

当初は点滴で抗生物質での治療が予定されていたが、
入院後に医師らは、傷が酷いうえに身体的にも知的にも障害が重いので
治療の利益がリスクを上回らないとして、治療を取りやめ、
栄養と水分の供給もなしに、介護施設に送って死なせようという、ということに。

とりあえずの受け皿がないために、そのまま病院で症状を悪化させていく
Johnさんを案じた介護スタッフが懸念の声を上げても、
医師らは「治療法はないし、もうすぐ死ぬ」と取り合わない。

7月になると、医師らはJohnさんをDNR指定とした。
その意思決定の理由には障害も含まれている。

しかし入院時にJohnさんの保護権は州にあり、
州法の規定によれば、意志決定は裁判所に任命された法定代理人
法定保護者である児童家庭サービス局との協議によって行われなければならない。

ワシントンDCの人権擁護団体は
病院の担当医が上記所定の手続きを満たしていないことを文書によって証明。

Johnさんが、なんら積極的な治療を受けられなかった2か月の入院を終え、
地域の自分のアパートに退院して帰った8月2日には、
体重が10キロ以上も減り、褥そうは3倍の大きさになっていた。

その後、2回の入院で抗生物質による積極的な治療を受け、
その後地域の自宅に戻ったが、傷は回復しつつある。

「あれほど辛い思いをしたにもかかわらず、
また、この患者は死ぬと病院医師らが診断したにもかかわらず、
彼は今でも地域で生きて暮らしている」