1人でTX州の総量をはるかに超える統合失調症治療薬を処方する精神科医が野放し……の不思議

精神障害者が高齢者と一緒にナーシング・ホーム(以下NH)に入れられていたり、
ナーシングホームの監査が十分に行われていなかったり、
入所者に不当に精神科薬が投与されていたり、という問題が
ここしばらく米国、特にイリノイ州を中心にニュースになっていますが(詳細は文末にリンク)、

その問題を一貫して追及しているChicago Tribune紙と
調査報道専門のPropublicaが共同で関連文書を調べ、

シカゴいくつものナーシング・ホームや精神科医療機関を兼任し、
患者を精神科薬で薬漬けにしてボロ儲けしている医師
Dr. Michael Reinstein(66)の行状を報じています。


劣悪なケアが問題視されて2000年に閉鎖されたManorナーシング・ホームでは、
精神科の責任者で、患者と見ればクロザリルを処方しようとするDr. Reinsteinのことを
職員が陰で「クロザリル・キング」と呼んでいた。

(クロザリルはclozapineの以前の名前。
こちらリンクの製薬会社の日本語サイトでは「治療抵抗性統合失調症の治療薬」で
「厳格な適正使用が必要」とされています)

Manorナーシング・ホームの患者たちは
Clozapineの副作用で体が震えたり、無気力になったり、失禁するようになっていて
副作用を訴えても相手にしてもらえないことに苦情を訴える患者があまりに多いので、
Reinstein医師は診察に来る時はボディ・ガードをつれていたという。

そういうエピソードもものすごいけど、なんといっても目を剥いてしまうのは、
この記事1ページにあるメディケイド資料からの棒グラフで、

2007年のReinstein医師の処方数は1286で、
同年にテキサス州全体でのclozapineの処方数1058を軽く超えている。

フロリダ州全体で679、Nカロライナ州全体で472)

なおclozapineは
FDAの警告としては最高レベルのブラック・ボックスが5つもついた向精神薬で、
心臓肥大、急速な血圧低下、痙攣発作の増加、免疫不全などが副作用に上げられている。

Reinstein医師は今なお13のナーシング・ホームや精神科医療機関で診療を続けており、
訴訟や苦情の申し立ては相変わらずあるものの、シカゴ地域で最も利益を上げている医師の一人。

解剖所見と裁判書類によると、これまで少なくとも3人の患者が
Clozapine中毒で死亡したとされる。

1999年にあるナーシング・ホームで亡くなった50歳の男性は
死亡時、clozapineの血中濃度が中毒レベルの5倍に達していたという。
(clozapineは死後に血中濃度が上がる特性があるとReinstein医師は反論)
85000ドルの損害賠償で和解しているが、遺族は
「まだ診療を続けているのが信じがたい」と。

他に、2003年にCuretonさん(27)と2007年にSpruellさん(54)の2人が
Clozapine中毒により死亡しており、訴訟となっている。

いずれも、ナーシング・ホームで攻撃的になって精神科病院に移され、
そこで診察したReinstein医師や彼のクリニックの医師らが
Clozapineを増量したり、他の薬を短期間に追加したことが原因とされている。

去年のある裁判の証言でReinstein医師は
入所者415人のナーシング・ホームで
300人にclozapineを処方したことがあると認めている。

彼が診療を行っている医療機関の看護師の中には献身的な素晴らしい医師だと讃える人もいるが、

ある看護師の証言では、クリニックにやってくると診察室にこもって、ひたすらカルテを書いている、
患者とはロクに話さないし、病室訪問するのは見たことがない、と。

Reinstein医師の診療に疑問を持ち、
2003年に州の保健局に警告したシカゴの精神科医がいたが、返事はなかった、という。
Propublicaの問い合わせにも、当局はその通報をフォローした証拠を出せていない。

この医師は
「ナーシング・ホームで暮らしている人たちの利益については
外からのチェックが必要です」と。

In Chicago’s Nursing Homes, a Psychiatrist Delivers High-Risk Meds, Cut-Rate Care
The ProPublica & the Chicago Tribune, November 10, 2009


Manorホームが閉鎖に追い込まれた監査の際には
Reinstein医師の患者が副作用をちゃんとモニターされていないことも報告されているし、
メディケアの不正請求の疑いも浮上しているにもかかわらず、
それらの問題は、なぜか、ウヤムヤになったまま。

地元医師からの警告にも反応しなかったとは、
この州当局の姿勢は、一体どういうことなのか……?

そういえば、Ashley事件でもWA州の保健局が
「調査に入る。場合によっては担当医には懲罰も」と公言しておきながら、
その後、ウヤムヤにしてしまったなぁ……。


【12月3日追記】
日本でも類似の事件が起こっていると教えてくださった方があったので、
TBさせてもらいました。