「強迫性障害、うつ病、肥満にも」DBSなど“実験的脳手術”

強迫性障害(O.C.D.)
何年間もシャワーを浴びることが出来なかった中年男性と
毎日7時間もシャワーを浴びなければいられなかった若者。

2人は共に脳の深部に
ガンマー・メスでレーズン大の穴をあける実験的な外科手術を受けた。

若者の方はOCDが治って、今ではめでたく大学生。
中年男性は95年に手術を受けたが治らず、67歳の今でも家から出ることが出来ない。

うつ病、不安症、トゥーレット症候群、肥満の治療のため
過去10年間に精神外科治療の臨床研究の一貫として
脳手術を受けた患者は既に500人以上。(米国内でか世界中でかは不明)

結果が良好であるため、今年FDA
1950年代の悪名高いロボトミー以来、初めて
強迫性障害に外科手術のテクニックの1つを認可した。

今後、研究が進むにつれて、さらに適応疾患が増えていくものとみられる。

しかし、効果は患者によってばらついており、
大して分かってもいない神経回路をいじっているとの批判もある。

米国で少なくとも1人、手術の失敗で自立生活が送れなくなった患者がいる。

Emory大学の医療倫理学者 Paul Root Wolpe氏は
「進歩はそれ自体によって正当化されるという、ほとんどフェティッシュな考えがあって、
有望な手段があるのなら、さっさと苦しみを取り除いてあげればいいと考えられていますが」
ロボトミーも同じような考えで行われて、多くの人に後遺症を残したのだ、
多くの医療のアイデアが、そういうことをやってきたのだ、と。

MGH/Harvard大学のDarin D. Dougherty氏は
「ここで、この研究が被害者を出したりしたら、今後また100年間
このアプローチは閉ざされてしまうことになる」と。

現在、実験的に行われているテクニックは3つで、
Cingulotomy(右脳と左脳の連絡を断つ?)、DBS、それに冒頭の2人が受けたタイプ。

いずれも、障害が正常な生活が送れないほど重症で、
スタンダードな治療がすべて効果がなかった患者に限って精査したうえで対象としている。
手術に当たっては、実験的なもので成功の保証はないとの文書に署名ももらう。

失敗すると研究者にとっても痛手が大きいので、
対象患者のスクリーニングは慎重に行うという。

手術を行っている病院には年間、何百人もの患者からの希望があるとのこと。

かつて、ロボトミーがほとんどデタラメに脳にメスを入れたのに比べると、
現在のテクニックははるかにターゲットをピンポイントに絞っているとはいうものの
去年スウェーデンのKarolinska研究所が発表した調査結果では、
OCDで手術を受けた患者の半数がOCDの症状が軽減した一方で
術後何年も無気力になったり、自尊感情が低下したりしていた。

「研究を報告する論文は、そのイノベーションを推進しているグループが書くのだから
どうしてもバイアスが紛れ込むのは防ぎがたい」とその論文の著者の一人。

Karolinska研究所の医師で、他のセンターよりも広く組織を焼いていた研究者は、
自分の調査の結果に衝撃を受けて、その後手術をやめた、という。

米国で女性患者が手術の失敗で重い障害を負ったケースは
2002年にOhio病院でのこと。
訴訟での賠償額は750万ドル。
同病院はもう手術を行っていない。



このエントリーを書くに当たってOCDのリンク先を探した時に、
最近コメントをいただいくことの多かった9月のエントリー
米国の市場から引き上げられたSSRIが日本で認可されたことの怪で出てきていた
社交不安障害についての解説を見つけた。

その中にも、2005年にSSRIが日本でも社交不安障害の薬として認可されたという記述があって、
ああ、ルボックスも、この中に含まれていたのだな……と納得。

なるほど、認可されたのはルボックス単剤ということではなかったのね……と
この解説を読んでいたら、

「社交不安障害の人は、脳の扁桃体という部分が
非常に過敏になっていることがわかっています」という下りがあって、

うつ病に対する薬物療法の考え方について
ずっと感じている、とても単純素朴な疑問と重なった。

その「扁桃体が過敏になっている」というのは
社交不安が起きた結果、脳に起こっている反応であって、
その脳の変化が社交不安を起こす原因ではないかもしれないということは、
ありえないんだろうか……?

仮に結果として起こっていることだとしても、
薬で一時的に抑えて、とりあえず苦しくてたまらない状態を凌ぐというのも、
それが苦しくてたまらない人にとっては必要なことだろうとは思うのだけど、

あくまで対症療法と捉えて薬を上手に使いながら、
時間をかけてじっくり病気と向かい合おうと構えることと、
脳で起こっていることを原因と考えて、そこを化学的に変えさえすれば治るという姿勢とは
なにかが決定的に異なっているんじゃないか、という気がしてしまう……。

あ、もちろん、何も知らない素人の、ただの他愛無い「気」がするだけで、

なにしろ、文系人間にとっては、
どうしたって、心と脳とは別物だとしか思えないものだから。

だから、強迫性障害とか、うつ病とか、まして肥満を治そうと
脳にメスを入れるというのは、

子どもが泣いているからといって
「じゃぁ、もう泣かないように涙腺を切断してしまおう」とでも言うみたいに思えて……。

(涙腺を切断……あは。あくまでも比喩です。比喩)



2009年11月10日の補遺(DBSの権威リザイ医師へのインタビュー。日本語)