医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLST

最近ちょこちょこ目にするので気になっていたPOLSTを
NYTの社説が取り上げている。

POLSTとは、
Physician Orders for Life Sustaining Treatmentのことで、
生命維持治療に関する医師の指示書。

医師が主導して患者の終末期医療について話し合いをして
終末期医療に関する患者の意思を確認し、
医師の指示書という形で1枚の様式に記録しておく、というもの。

POLSTの公式サイト(英語)はこちら ↓
http://www.ohsu.edu/polst/programs/index.htm

日本語の説明は例えば、こちらに ↓ 
http://ichiba-md.com/medical/iryou/polst-2.html
http://www.c-mei.jp/BackNum/103n.htm

日本語版もできていて、こちらに ↓
http://www.ohsu.edu/polst/programs/documents/POLSTnewestwithJapanese.pdf


「適切に用いられれば、患者の受けたい治療が受けられる可能性が大きくなるのと同時に、
医療コストを削減するという2つ目のメリットもある」として、
NYTの社説はこのPOLSTにたいへん前向きで、
プロライフからのデマゴーグに負けずに普及させるべきだ、と。

(「患者が受けたい治療を受けられる」というよりも、システムの趣旨は
「患者が受けたくない治療をはっきりさせておく」という点にあると思うのだけど、
なぜかこの記事は「患者が望む治療を受けられる」という表現に終始する)

現在、NY州を含む15の州がPOLSTを用いることを認める法律や条例を作っており、
その他にも28の州で同様の方向性が打ち出されている。

一般には、医療機関ごとにPOLSTを患者に提案するかどうかを決めさせ、
使うかどうかは常に患者と家族の自発的な意思に任される。

医師が(州によってはナース・プラクティショナーや医師のアシスタントも)
患者や家族、代理決定権者との会話をリードし、
進行した病気のある患者が終末期にアグレッシブな生命維持を行うか、
それとも限定的な介入に留めるか、たんに緩和ケアやホスピスケアにするかを決めて、

患者が自分で決めることができない状態になった場合に備えて
救急医療やその他医療提供者に向けた医師の指示書として内容を1枚にまとめる。

多くの州では、インフォームド・コンセントの徴に
患者または代理者のサインが必要となる。

できあがると、患者の電子カルテの中にハイライトで記録され、
救急搬送されたり、ナーシング・ホームに入所しても
その患者が行く先々で患者の意思として尊重されることになる。

POLSTは1990年代にオレゴン州で使われ始めて、
現在では同州のほぼすべてのホスピスとナーシング・ホームで自発的に使われている。
(skilledなナーシング・ホームという表現があるのは
POLSTを使っているようなホームがケアの質が高い、との示唆か?)

事前指示書を書いている少なくとも5万人のオレゴン州民に
医師または看護師の署名入りのPOLSTがあるという。

このオレゴン・モデルは
ウィスコンシン州のGundersen Lutheran ヘルス・システムも採用し、
介護施設ホスピスの患者ほぼ全員にPOLSTが出ている。
家族も喜び、コストも下がった。

国内のメディケア・コストの比較データでは
2010年にはGundersonは終末期の患者の治療に関しては
全米で最もコストの低い病院群の中に含まれていた。

そこでウィスコンシン医師会は同州のほかの地域でも
Gundersonアプローチを試みるパイロット企画を立てたが、
カトリックの主教たちからの安楽死のリスクがあるとの強硬な反対を受けてとん挫。

結局、パイロット企画は
健康な成人に事前指示と代理決定者の任命をしておくよう提唱するに留まることに。

2009年のオバマ医療改革法案に含まれた同様のシステムの提案が
右派や共和党から「死の委員会」だと批判されて削除されたことで
こうした改革は時間がかかってしまったが、

終末期医療についての話し合いと医師による指示書があることは
患者がいざその時に自分の意思を尊重してもらえるという安心感に繋がって、
医学的利益もない高価な検査や思い切った医療の回避につながるはずである、と。

Care at the End of Life
NYT, November 24, 2012


すぐに頭に浮かんだのは、
一方には「無益な治療」法の広がりがあるんだけれど、
これらの整合性って、どういうことになるんだろう??

患者がPOLSTで「やってほしい」と望んでいる終末期の治療があるとして、
病院側が「それはこの患者には無益」と判断した場合には……?


それにしても、
これもまたオレゴン州から、かぁ……。

そして、続こうとしたのが
Norman Fostのおひざ元、ウィスコンシン州……。




【28日追記】
案の定、Thaddeus Popeのブログに
VT州では、治療が無益な場合には患者本人にも代理決定者にもコンセントをとらずに
DNR指定するツールとしてPOLSTが使われている、との情報がアップされています。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/11/polst-dnar-without-consent.html