DBSうつ病応用へ

パーキンソン病の震えなどを抑制する効果が確認されて
世界中で4万人が電極を埋めているというDBS(脳深部刺激療法)
うつ病の治療に有効かもしれないとして実験が進められており、
こうした実験で展望が開ければ、
将来は頭部外傷患者やイラクからの帰還兵にも応用できそうだ、と。

Brain Pacemakers Tested For Depression
The USA TODAY, May 26, 2008


とはいえ、現在のところ実験資金も限られており、
(ほとんどは電極製造会社から出ている)
系統的な実験が行われるに至ってはいないし、
今の段階では何も断定的なことはいえない。

(最近の「このハイテクがすごい!」的ニュースって、
 読んでみると実はこの程度の話が多いですね。
 しかも、詳しく触れられるのは効果がありそうだという症例の話だけで、
 効果がなかったケースについて出てくるのはせいぜい症例数程度。
 もしかして副作用や失敗の例は闇に葬られているのでは……と勘ぐってしまう。)

DBSの世界的権威であるThe Cleveland Clinic's Center for Neurologic Restrationの
Ali Rezai医師などは
「我々はいろんな意味で脳の配線をやり直しているということです」と。

もちろん、今の段階で安易な適用には慎重を呼びかける人もあり、
The National Institute for Mental HealthのDr. Wayne Goodmanは
DBSは非常に侵襲度が高く実験的な医療であり、
厳選された患者への最後の手段である、と。

Goodman医師が懸念するのは、
効果と副作用とを慎重に見極めずに多用するには時期尚早なのに、
DBSの電極そのものは広く出回っているので、
きちんとした訓練を受けていないセンターが4万ドルもするこの手術を
精神科の患者に実施し始めるのではないか、という点。


去年、どこまで広がるDBS(脳深部刺激術)?のエントリーで
上記Rezai医師がDBSの精神疾患への応用を考えていることが
新たな形での安易な精神外科医療の復活につながるのではないかと懸念しましたが、
やはり、その通りになっているのかもしれません。

もしかしたら先端技術の臨床応用の情報は
敢えてフライング気味に流されているのでは、と思ってしまう。

「この技術がすごい!」、「将来はこんなことも可能!」などと
すぐにも夢の技術が実現するかのような大騒ぎで患者サイドの夢をかきたてて
それによって患者側にニーズを無理やり創出し、
患者のニーズと自己選択をいいわけにすれば、
安価で広範囲な人体実験ができるから……?



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この記事を読んで思い出したのですが、
夢の素材としてあらゆる方面に用途が広がっているナノ・チューブに
アスベスト並みの発がん性があるかもしれぬ、とWPが報じていました。

Effects of Nanotubes May Lead to Cancer, Study Says
The Washington Post, May 21, 2008

様々な用途に利用されているナノ・チューブに直接的に触れる人だけでなく、
製造過程で空中に飛散するナノ・チューブ・ダストに長年さらされる人も危ないらしい、
という研究結果が報告された一方で、

技術開発や商品化には巨額の資金がつぎこまれても、
健康や安全に関する研究に回される資金はわずかにその5%だといいます。

そのリスクに対する無神経には、唖然。

「この技術がすごい!」と夢ばかり描き、その実現に向け前に進むことばかり、
早く進むことばかり……というのはいいかげんにやめて、
しっかり安全を確かめながら、ゆっくり進んだっていいんじゃないでしょうか。

せめて、「バラ色の未来は近い!」的、フライング情報に踊らされないようにしたい。

「50年後の人類がスーパー人類へと変貌を遂げているためには、
今の人間一人ひとりの健康や命などコラテラル・ダメージに過ぎない」なんて考えている人がいる。
そういう人たちによって、使い捨て実験資材にされないために。