製薬会社とブッシュ政権が訴訟つぶしを画策中

……というタイトルどおりの動きを NY Times が指摘しているのですが、

そこで製薬会社と政府が盾にとっているpre-emptionという法理論というのは、
どうやら専門家の専門性に絶対的な免罪符を与えて司法判断より上位に置くといったもの。
これでは専門性を隠れ蓑に何でもやりたい放題じゃないか……と唖然とする。

そして、これは、もしかしたら
「無益な治療」での訴訟つぶしにも応用できる論法ではないか……と考えると、
なんだか今度は慄然とする。


Drug Makers Near Old Goal: A Legal Shield
The NY Times, April 6, 2008

The Dangers in Pre-emption
The NY Times, April 14, 2008



数年前、Johnson&Johnsonの避妊薬パッチOrtho Evraが問題になりました。

経口避妊薬より何かと便利で
世界中で400万人の女性に愛用されていたOrtho Evra、

実はエストロゲンを通常の避妊薬の1,6倍も含み、
それだけ使用者のエストロゲン血中濃度を上げるものだったのですが、
Johnson & Johnsonがそれを発表したのは
同パッチが原因と見られる血栓症によって多くの死者と脳卒中患者が出た後の2005年秋。

3000人もの女性や家族が同社相手に訴訟を起こしています。

裁判過程で判明したのは、
Johnson & Johnson社が社内的に同パッチを認可した2001年以前に
パッチがピルよりも血中濃度をあげることを把握して、
FDA提出資料の上では「修正」を行っていたという事実。

そしてその「修正」情報に基づいてマーケティングが行われた
(つまりウソ情報で売られた)ということ。

しかし、
現在は新ラベルに正確な含有量と適正な使用方法を記載し、
正しく使えば安全な薬だと主張する同社は
裁判ではpre-emptionという戦術で訴訟そのものを否定してかかっています。

pre-emptiveはイラク開戦の際の「先制主義」でも使われた言葉ですが、
ここでは、

製薬会社を規制することのできる専門知識を持っている唯一の機関がFDAである以上、
FDAの決定を裁判所が疑うことはできない、という主張。

従って、同社を訴えることはできないはずだ、というわけ。

驚くことに
Bush政権もこの論理を後押ししており、どうやら、
頻発している製薬会社に対する訴訟崩しにpre-emptiveを慣例化する狙いがあるのではないか……
というのが、ここ10日間で2度もこの問題を取り上げた NY Times の論旨。

なにしろ過去10年間に認可を取り消された薬や訴訟を起こされた薬は
統合失調症治療薬のZyprexa
鎮痛剤のVioxx
糖尿病治療薬のRezulin
胸焼け治療薬のPropulsid
さらに抗ウツ薬が数種類。

Zyprexaの訴訟では
独自の検査を行わず製薬会社のデータ頼み、
リスクを把握しても消費者に強く警告することは製薬会社に求めない
FDAの弱腰体質が明らかにされているところ。

(こちらの事件の当初報道を紹介して下さっているブログがあったので、
 TBさせていただきました。)

こんな状態でpre-emption原則がまかり通るということになると

FDAと癒着している製薬会社のやりたい放題、
患者・消費者は製薬会社の食い物で、
いいかげんな臨床試験やデータ改ざんの犠牲になっても
裁判も起こせなくなるということです。

そして、このpre-emption、
医薬品以外にも拡げていける理屈ではないでしょうか?

私には今でも裁判所など無視せよと提唱しているNorman Fost医師が
pre-emptionに飛びつく声が聞こえてくる――。

「医療の専門家は医師である。裁判所に医師の医療上の判断を疑う資格はない」

(そういえば最近、日本でもこういう声をたま~に耳にしますね。)



英国では米国のFDAに当たるMHPRAが3月に製薬会社に対して
倫理観を持てと異例の訴えを行っています。
FDAブッシュ政権よりもマシなのか?
それとも、この「お願い」、最後に残った良心を振り絞っての絶叫──?
そのまま制御不能状態に突入する“いまわの際”の──?