Angela事件の判決文は、Ashley論文(06)と同じ戦略で書かれている 2

前のエントリーの続きです)

文章の構成上の工夫に、事実を隠ぺいするマヤカシが仕込まれている

隠ぺいまたは情報操作が試みられているのは主として以下の点。

① けいれん発作は薬でコントロールされており、重い生理によって誘発されることは「可能性」として言及されているだけなのに、あたかも「生理によって頻繁に発作が起こっている」かのように思わせようとしている。

② 多量の出血は初潮から間もなく収まっているし、貧血を起こしたのも1度だけであるにもかかわらず、「いつ起こるか分からない生理の大量出血で、既に何度もけいれん発作が起きている」かのように思わせ、「けいれんと貧血を止めるために、子宮摘出が唯一の手段」だと思わせようとしている。

つまり子宮摘出を正当化するほどの「健康上の問題は実は存在しない」という事実が
判決文の全体にはりめぐらされた巧妙な仕掛けによって隠ぺいされているのです。

分かりやすい個所を1点のみ、挙げます。

20. In November 2007, the bleeding appeared to have settled but Angela was anaemic and required iron treatment to bring her back into a range that was described as “normal”. Under a general anaesthetic, a medical procedure was undertaken because of the difficulty of doing anything with Angela because the Rett Syndrome. This an an Implanon procedure which was inserted into Angela but the following month showed no abatement of the problem. Various other treatments including oral contraceptive pills and Depo Provera were also tried but were found to be unsatisfactory.

2007年11月に出血は安定したと思えたが、Angelaは貧血になっており、正常と言ってもいい範囲に戻すためには鉄剤の治療を必要とした。全身麻酔での医療行為が、レット症候群のためにAngelaには何をするのも困難なため、行われた。これは、ImplanonがAngelaの内部に挿入される治療であり、その後の一ヵ月間に問題の軽減は見られなかった。その他、経口避妊薬とDepo Proveraも試みられたが、効果は不十分だった。

ほとんど意味不明の、ものすごく、奇妙な文章です。
This is Implanon……という前後などは、ほとんど小学生の作文並みに聞こえる。
でも、実は、これこそが仕掛けなのです。

まさか判事が書いた判決文に恣意的な誘導が仕掛けられているとは思いませんから、
この判決文を読む人はそれほど論理的に厳密な注意を集中して読むわけではありません。
恐らく無意識に単語やフレーズの流れから、先を予測しつつ読んでいきます。

例えば、ここでは
「貧血になった」→「鉄剤で治療が必要だった」→「全身麻酔の治療が必要だった」
と、流れが繋がっていきます。

すると「全身麻酔が必要だったのは貧血の治療だった」というふうに
たいていの人は頭の中で「貧血」と「全身麻酔の治療」とを繋げてしまう。

いわば、文章のサブリミナルですね。

しかも、検査数値が「正常範囲でなかった」だけのことなのに
“ノーマル”が引用符で強調されることによって、
“ノーマルでないほどひどい貧血”というイメージが想起されて
この子の貧血はただ事ではないぞ」とあらかじめ意識下にインプットされているので、

論理的に考えれば貧血で全身麻酔の治療なんかありえないのだけど、
ほとんど自動的に「貧血は鉄剤で一旦治ったけど、それだけじゃ済まなくて、
全身麻酔で治療するような、とんでもなく異常な貧血がその後も起ったのだ」と
読者の方で勝手に解釈してしまう。勝手に解釈してくれる。

だからこそ、読者のその勝手な誤解を生じさせるべく、
「貧血」について書かれた個所に、すぐ続くのは
全身麻酔」と「医療処置」という言葉でなければならないし

いかに小学生並みの下手くそで論理展開のおかしい文章になったとしても、
それが何の治療だったかという真実は、後ろにもっていき、見えにくくされなければならない。

なぜなら Implanon は貧血の治療ではなく、「埋め込み型避妊薬」だから、です。

そこの肝心の説明をわざと省いて、
一カ月しても「問題の改善が見られなかった」といえば、
素直に読む人は「ああ、全身麻酔までして治療したのに貧血は治らなかったのだ」と読み
「問題」とは「貧血」なんだと、これまた勝手に思いこんでしまう。思いこんでくれる。

でも、避妊薬で貧血を治療することはあり得ないし、
もともと貧血は収まっていますから、貧血は「問題」ではありえないのです。

ならば、ここで「改善が見られなかった問題」とは本当は何なのか。

その後に続く、経口避妊薬もDepo Proveraも
貧血の治療薬ではありません。

全身麻酔までしたImplanonで解消しなかった問題」の真相とは
「貧血」でも「けいれん」でもなく「生理があるという事実」それ自体

全身麻酔で治療をしたけど一カ月しても軽癒しなかった」
「他の避妊薬を使っても満足な効果が得られなかった」とは、
ただ単に「生理を止めることができなかった」ということです。

でも、これは、とてもおかしい。

大量出血は初潮から間もなく落ち着きました。
貧血も一回だけで、治療は終わりました。

それなら、生理に起因する健康上の「問題」は解決されていて、もう「ない」。
つまり、生理を止めなければならない健康上の必要などないにもかかわらず
「生理をなくす」そのこと自体を目的に避妊薬が次々に投与されたのです。

じゃぁ、全身麻酔は何のためだったかというと、
おなかに埋め込み型の避妊薬を挿入するだけなんだから
普通だったら婦人科でちょちょっとできることなのだけど、
知的障害と不随意運動のあるAngelaの場合
「レット症候群のために、この子には何をするにも困難なので」全身麻酔でやりました、と。

経口薬だってあるし、注射もあるのに、それらを後回しにして、
最初に試みられたのが埋め込み型で、そのためだけに、
大きなリスクを伴う全身麻酔をやったという事実が
この親と医師の感覚について、何か重要なことを物語っていると私は思う。

しかも、その際には感染症を起こして術後1ヵ月間、大変なことになった。

そんな娘に、それでも、まだ、大した理由も必要もなく、とにかく生理を止めるために、
子宮摘出の開腹手術をやりたい、と言うのが
admirable で loving な Angelaの親であるわけです。

それらの事実を見えにくくしておいて
「多量出血による貧血」という「問題」を解決する「治療」として
いろいろやってみたけど子宮摘出が残された「唯一の治療」となったのだと、
事実と違う「読み違え」「勘違い」を読者にしてもらうための工夫が
細心の注意とずる賢さで周到に仕込まれているのが、
一見「むちゃくちゃ下手くそな悪文」としかみえない、この一節の真実。


また、もう1つ、ここに巧妙に仕組まれた仕掛けとして指摘しておきたいのは、
これ以前には「Angelaの生理は9歳の時に始まった」と年齢で書かれていたのですが
ここでは「2007年11月に出血が安定した」と時期で書かれていること。

Angelaは2010年の現在「もうすぐ12歳」なのですから
2007年の11月には9歳だったことになります。

9歳で始まって、どばどば漏れて不衛生だし、けいれんを誘発するのではないかと
母親をハラハラさせ、あれこれ検査しても原因不明だった「多量の出血」は
なんと9歳のうちに「安定した」のです。

それでは「多量の出血」が「生理を止めなければならない理由」にはなりにくいから、
その事実に気付かれないように、敢えて始まりは年齢で書き、出血量が安定したのは時期で書く――。

ちょっと考えてみてほしい。

これほど細心の注意を払って
まるで活字サブリミナルのような巧妙な仕掛けをあちこちにはりめぐらせて
事実から読者の目をそらせるための判決文を書く判事って……?


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実は、06年のGunther&Diekema論文にも、これと全く同じ
誰が読んでも「下手くそで論理的にも、ワケがわからない」センテンスがありました。

そして、そこにはもちろん、マヤカシがいっぱい仕込まれていました。
通り一遍ではない興味でこの事件を眺めておられる方、よかったら、比較してみてください。

詳細はこちらのエントリーに。
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/9530359.html