抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)

Scoop というニュージーランドのニュースサイトに
「製薬業界のハスラー Part 1 :SSRI 抗ウツ剤を強引に売り込む人たち」
というタイトルの長文記事があります。

Paxilの副作用被害を巡って訴訟を起こしている法律事務所がまとめた報告書の一部のようです。

長い間、製薬会社ばかりが注目されてきたが、
ここへきて向精神薬大流行を作った元凶にスポットライトが当たって
やっと巨大「精神―製薬・複合」の解体が見えてきた、として、

抗ウツ剤のマーケティングを巡って最近明らかになってきた
一部研究者と製薬会社の癒着スキャンダルを概観しています。


Pharmaceutical Industry Hustlers – Part 1
SSRI Antidepressants Pushers
By Evelyn Pringle
Scoop, November 6, 2008


Prozac, Paxil, Zoloft, Celexa, Lexapr などSSRIと呼ばれる抗ウツ剤は
過去20年間に米国で他のどの種類の薬物よりも多く処方されている薬物で、
「脳内化学物質のバランスが乱れているから」という説での処方が通り相場となっている。

この説について、最近“Medication Madness”という本を書いたDr. Peter Bregginは
鬱病の原因が生化学バランスの乱れだという科学的エビデンスはなく、
そんなものは販促スローガンに過ぎない。
メディアと一部精神科医がしつこく繰り返すからみんなが本当だと思い込んでいるが、
本当は薬など飲みたくない患者に向かって、
医者が何の根拠もなく飲む必要があると言っては飲ませているだけ。
もし、あなたの脳に生化学的なバランスの乱れがあるとしたら、
それこそ、あなたの担当医の処方薬によるものであろう」と。

Glaxoスキャンダル

現在、注目を集めているのはPaxil の製造元のGlaxoSmithKlineで

FDAは1992年12月にPaxilを認可したが
実はGlaxoの治験で、Paxilを飲んでいる患者には
擬似薬を飲んでいる患者よりも8倍の自殺行為が見られ、
1989年の段階でGlaxoはPaxilの副作用で自殺念慮が起こることを知っていた。

知っていながら、同社がデータを操作して
虚偽の報告書をFDAに提出し認可を受けたために
本来なら添付されるはずの警告なしに販売されて
副作用により自殺者が相次いだ。

13才の子どもを含む自殺者の遺族らから訴訟が起きている。

これら訴訟の存在が明らかになったのを機に、
現在、米国法務省と上院議会財務委員会が調査中である。

上院の調査は前に当ブログでも紹介したGrassley議員によるもので
同議員は「要するにGlaxoはFDAをたぶらかしたのだ。
製薬会社がありのままを語らず、情報を隠して
FDAと国民をミスリードするような国には住んでいられない。
彼らは体内に取り込む薬を売っているのだ。スニーカーとは違うんだぞ」と。


著名精神科医の金銭授受スキャンダル

Harvardの小児精神科医Biederman,Thoman Spencer, Timothy Wilensのほか、
Stanford大学のAlan Schatzberg,
Brown 大学の Martin Keller,
Cincinnati 大学のMelissa DelBello、
Texas大学のKaren Wagner, John Rushなど
製薬会社からの巨額な金銭授受を巡って
「利害の衝突」に関するディスクロージャーを行っていなかった研究者らの名前が
Grassley議員の調査によって次々に明らかになっているところ。

今後明らかにされるべき名前を含め、
ディスクロージャーの不備を指摘される研究者は総勢30人に上るとのこと。


Serzone スキャンダル

ジャーナリスト Alison Bassの新刊
“Side Effects: A Prosecutor, a Whistleblower, and a Best-selling Antidepressant on Trial”によると、

Brown大学のDr. Kellerは1998年のシンポジウムで
巨額のコンサルタント料をもらっているBristol-Myers社の抗ウツ剤 Serzonの効果を謳い、
さらにその後the New England Journal of Medicine誌に
Serzoneの利点をあげつらった論文を書いた。
Serzoneは肝機能障害を起こすとして2004年に販売停止となったが
既に何人かの患者が死亡した後のことだった。

Bassが著書の中で指摘しているのは
製薬会社から個々の研究者に流れている金額の大きさばかりに目を奪われずに
製薬会社が資金を引き上げたら研究機関そのものが成り立たなくなっている実態と、
そうした事態に至ってしまった背景にも目を向ける必要。

大学もまた、研究資金を調達してくれる研究者に目をつぶってきたという事実がある。


Paxil 研究329のスキャンダル

「史上、最も悪名高き小児科臨床実験」であるPaxil研究329。

「精神―製薬・複合」を批判しているWales大学のDr. Healyは
「この研究は科学がマーケッティングに堕した時点を示す指標である」と。

Dr.Healyによると
Glaxoの研究329などでPaxilが小児には効かないとの結果が
1998年には出ていたにもかかわらず
Glaxoはその研究結果を公表することは「商業上受け入れられない」と判断。
効果があるとする研究結果が2001年にDr. Kellerら20人が名前を連ねる論文に発表された。
実際にはゴーストライターによって書かれた論文だったが
未だにその論文の著者の誰一人として過ちを認めていない。

論文が発表される以前から
著者らは米国内に留まらずカナダでまで講演しては
適用外でPaxilを子どもに使うよう説いて歩いていた。
Dr.Healyによれば「あの論文を境に子どもへの抗ウツ剤の処方が急増した」。


CMAPスキャンダル

今年8月、テキサス州は同州の精神保健医療計画で
子ども向けにこれら向精神薬の名前を上げているものを停止した。
製薬会社からコンサルタントらへの不透明な金銭授受を懸念したため。

CMAP(the Children’s Medication Algorithm Project)とは
州が運営する精神保健医療センターにおいて、
子どもに最も効果のある向精神薬がどれで
どの順番で投薬されるべきかという優先順序を決めるプロジェクトだが
このプロジェクトを立ち上げた研究者の中にDr.Wagner と  Dr. Emslieがいる。

Dr.Kellerが子どもへのPaxil処方増加の立役者だったとすれば
Prozacの治験で主要な役割を果たしたのはDr. Emslieで、
Zoloft研究の女王蜂がDr.Wagner。
子どもにSSRIを使うことを奨励する論文を書いた研究者といえば
Biederman, Schatzberg, Wilens そして言わずと知れた Charles Nemeroff。
いずれも製薬会社からの多額の報酬を申告していなかったスキャンダルが
明らかになっている。


抗ウツ剤漬け・巨額資金が動く米国精神科医

Grassley上院議員の調査によれば、
米国精神医学会の活動資金の30%が製薬会社から出ている。

製薬会社に医師への支払いを明らかにする規定を設けているVermont州の情報では
2007年に製薬会社から支払いを受けた金額による上位100名のうち
最も高額な支払を受けていたのは精神科医らで、
11人の精神科医に支払われた金額だけで全体の20%にも上った。

さらにディスクロージャーの対象となった薬のトップ10のうち
5つまでが向精神薬だった。

米国での抗ウツ剤の処方量は全世界での処方の66%、
ヨーロッパが23%、その他が11%。

CDCが2007年に行った調査でも
2005年に通院時に最も処方されていた薬が抗ウツ剤で
その48%はプライマリー・ケアの医師によるものだった。
去年の処方は2億3000万通以上。総額で120億ドル。

Grassley議員の報告では
製薬会社が医師らへのマーケティングに使う金額は年間19億ドル。

現場の医師にはキックバックや無料サンプル、
時には食事の招待、顎足つきの旅行やコンサル名目での金銭の授受などが慣行となっており、

この記事が最後に指摘しているのは
こうした巨額のカウンセリング料や実際に処方する医師へのキックバック
回りまわってメディケア・メディケイドその他公的医療制度の費用を押し上げ、
民間医療保険の掛け金を押し上げ、アメリカ人みんなの医療費を押し上げているのだということ。

各州でメディケイドの破綻が懸念されている中、
全米で州検事局が巨大製薬会社を相手取った消費者詐欺訴訟を起こしつつある。

SSRIの副作用で障害をもって生まれた子どもたちからの
訴訟も起こされたばかり。

しかし、その一方で、
製薬会社が牛耳るFDAブッシュ政権
preemptionによる訴訟つぶしを進めてきていることが懸念される。

この報告書Part2はこちらに。