小児科の医学研究 安全基準見直しへ(米)

子どもを被験者にした医学研究では
安全性の問題と臨床実験の不足という問題の間でバランスを取るのが難しいわけですが、

米国FDAはこのほど2日間の委員会を開き、
喘息などの病気の治療薬、AIDSワクチンの開発、万能細胞の医学利用について
小児科研究の実施方法を見直す、とのこと。
IRB(施設内審査委員会)での検討ガイドラインが示される可能性も。



とはいえ、AIDSワクチンの臨床実験では、去年、
ワクチンを受けた被験者49人がAIDSウィルスに感染したために
実験の中止が命じられたというケースがあったばかり。

(臨床実験でAIDSに感染するなんて、
そんな可能性のある実験が許可されたこと自体、言語道断では?)

もう1つ、私が個人的に非常に気になるのは、
この委員会の委員長が、当ブログで注目してきた、あのNorman Fostだということ。

もともとFostはFDAの小児科研究倫理問題検討委員会の委員長なのだから、
こうした委員会の委員長になっても不思議はないし、
案外ここで2日間開催されるのが、この同じ委員会なのかもしれませんが、
(記事からはいずれとも分かりません)

しかし、Norman Fostが小児科の臨床実験を巡っては、
「リスクには報酬で報いればすむこと」と発言していることなどや、
これまでの言動からすれば
どういう方向で小児科の医学研究の方法が見直されるか
既に結論が見えているようなものでしょう。

案の定、FostはBloombergの電話取材に対して
「大人の臨床研究で充分という考え方だってあるが、」
大人になってからでは遅い喘息のような病気もあり、
子どもでの臨床研究がもっと行われる必要がある」
と、語っています。

また、記事の中でCleveland クリニックの生命倫理部門の長 Eric Kodishが取材を受け、
安全への配慮条件を緩和してもっと子どもで臨床実験をするべきだと主張しているのですが、
そのジャスティフィケーションとして
日常生活の中で子どもが自転車に乗ったりスノーボードをしたりすれば
そこにだってリスクはあるのだから、そういうリスクとも比較して
もっと臨床実験のリスクを現実的に捉えなおそう、と
ビックリするような屁理屈を引っ張り出しています。

この屁理屈、実は
Fostがスポーツでのステロイド使用を認めろと主張する際の屁理屈と全く同じ。

体へのリスクを言うならタバコやアルコールの方がリスクが大きい、
スポーツで怪我をするリスクを考えたらステロイドのリスクなど取るに足りないというのが
「Mr.ステロイド」と異名をとるFostの持論なのですから。

そのFostが委員長を務めている限り、
子どもへの利益が確かめられている場合にのみ多少のリスクがあっても実験を認めることもあるという
FDAの現在の基準は緩和の方向で大幅に見直されることになるでしょう。

 
【追記】
その後、この記事はアップデイトされて、
AIDSワクチンの臨床実験については、
罹患率がもっと高いアフリカの国などでは実験も必要だけれども、
アメリカでは実験の利益がリスクを上回らないとして、
当面見送りとなりました。