オリンピック選手は人体改造実験マウスなのか?

北京オリンピックを機に、
ステロイド解禁論がまたぞろ出てきているようで、NYTimesにも。

Let the Games Be Doped
By John Tierney
The New York Times, August 11, 2008

解禁論者の主張は大体いつも同じなのですが、ここでもまた、

現在のドーピング検査は不正確、不完全で
そのためにヤリクチの巧妙な選手ほど罰せられずに通っている。

ドラッグの方も次々に開発されて検査技術が追いついていない。
(ものすごい勢いで走り続けるマイティ・マウスを作った、あの薬物なども
 このオリンピックで使われるかもしれないという予測もあったとか?)

それにバイオで遺伝子レベルでの操作が可能になると
これはもう検知可能範囲を超えた無法地帯である。

よって、いっそのことドーピングを解禁・合法化した方が
アクセスが平等になり、ズルをする選手がいなくなって
より安全で信頼性のあるスポーツを取り戻すことが出来る……という主張……

……なのかな、と、この記事もざっくり読むとそう思えるのですが、

しかし、

記事をずっと読んでいくと、
あるところで、くいっと論旨がひねられて別のところに向かう感じがあります。

その転換点に登場するのが例のNorman Fost

「(Alzado選手の脳腫瘍は)ステロイドよりもビールの飲みすぎが原因だったといった方が
まだしも科学的な根拠があるでしょう。
アナボリック・ステロイドは死に至るとか不可逆なダメージを起こすとか
よく言われていますが医学的な根拠はありません。
フットボールや野球を普通にやる以上にリスクが大きいと考える理由はありません」。

(「スポーツがもともと危険なのだから薬物のリスクなど小さい」は一貫してFostの持論
 小児科医であるばかりか、FDAの臨床実験審査委員会の委員長でもある方なのですけど。)

このFostの発言を転換点として、その後
この記事はだいたい以下の論旨となります。

「栄光と引き換えにリスクを侵す」ことを社会は冒険家たちに認めてきたではないか、
オリンピック選手というのは世界中で最も高度な肉体機能を持った人間であり、
そういう人間が人体のパフォーマンスの限界を押し上げて見せてくれることによって
普通の人間の体が老化に抗うヒントが見出せるはず。
ドラッグであれDNA操作であれ、なんでもありのウルトラスポーツというのがあったら
そこでは一体何が起こるのか、みんな見てみたいと思わないか?

だって、ほら、人間の身体って改良可能なんだからさ。

この人たち、他人の身体をなんだと思っているんだろう?

要はトランスヒューマニストたちが、
アスリートの鍛え抜かれた身体を
人体改造実験のマウスとして使いたいってことなのでは――?