象牙海岸の悲惨

ナイジェリアの子どもたちの悲惨を読み、
去年、象牙海岸で起きた悲惨を思い出しました。

先進国が出した毒性の強い石油化学廃棄物が何百トンも
世界で最も貧しい国のひとつである象牙海岸の海辺の町のあちこちに、
夜陰に紛れて捨てられたという事件。

死者10人。
69人が入院。
10万人が治療を要したといいます。

ことの起こりは去年の7月2日。
韓国で建造され、ギリシアが管理し、パナマ船籍のタンカー the Probo Koalaが
オランダのTrafiguraという商社に雇われて、
地中海で長く原油の倉庫船として使用された後、
アムステルダムに到着します。

Trafiguraが言うところでは、
定期的な船倉の洗浄で出た廃棄物を積んでいると説明したらしいのですが、
具体的にどこで出たものかは明かしていません。

(オランダのメディアは、
それまで原油の倉庫船として使われていたProbo Koalaが
夏の原油価格高騰で臨時に精製に使われ、
それで出た廃棄物ではないかと推測しています。)

アムステルダムでその処理を請け負った業者は
その量の多さと毒性の強さに金額をアップ。
するとTrafiguraは支払いを拒否し、
いったん降ろした廃棄物をまた積み込んで出航します。

その後エストニアでロシアの石油製品を積み込み、
それをナイジェリアに届けた後に、
8月19日に象牙海岸のAbidjanにやってきました。
象牙海岸に毒性の強い廃棄物を処理できる施設などないことは、
周知の事実にも関わらず。

そして象牙海岸の港湾当局と運輸省に廃棄物について申告、
勧められた地元の4つの会社の1つに処分を依頼するのですが、
その会社は夜陰に紛れ、
その廃棄物を市内の18箇所に廃棄したのです。

犠牲になった中には、
金になるアルミ片を求めて
1日に何時間もゴミ漁りを日課にしている子どもも。

象牙海岸の港湾職員4人と、
廃棄処理を請け負った会社の社長
そしてTrafiguraのフランス人役員2人が逮捕されました。

しかし、この事件の真の犯人は本当に彼らだといえるのでしょうか???

       ――――     ――――

この事件で初めて知ったのですが、
アフリカはもう長いこと先進国のゴミ捨て場と化して
今では世界中からI T 関連の有毒ゴミが毎日続々と
アフリカに持ち込まれているのだとか。

任天堂がグリーンピースに非難された背景には、
 こういう事態があるのでしょうか。)

象牙海岸の住人は言います。
「なんでここに捨てたんだよ?
なんで、そんなことするんだよ?
人が死ぬと分かってたはずだろ。
どうしてアフリカに持ってくるんだよ?」

貧乏な国の黒人なんか死んだっていいと言わんばかりに
金持ち国が自分たちが出した毒物ゴミを貧乏国へ捨てに行く
グローバリゼーション──。

持てる者がより多くを持つために、
持たぬ者から尊厳や命すら問答無用で剥ぎ取っていく
ネオ・リベラリズム──。

そして、世界がこういう場所になりつつあるという認識の中で、
先端技術の周辺で起こっている諸々を振り返ってみると、
ふっと思うのですね。

リベラルな生命倫理もトランスヒューマニズムも、
つまるところは、

新興技術がもたらす恩恵や富というカレンシーによる
ネオ・リベラリズムではないのか?




Global Sludge Ends in Tragedy for Ivory Coast
The NY Times, October 2, 2006

Sludge in Ivory Coast
The NY Times, October 9, 2006
(2日の記事へのTrafiguraの抗議)


また、事件が起きたAbidjan に住んでおられた方が
その後の詳細をまとめておられました。