遺伝子診断で障害も重病も弾くつもり?(英国)

英国でヒト受精・胚法(1990)の見直し法案が
現在上院で第二読会中という話を聞いたので、

着床前遺伝子診断による障害児の選別が話題になっているという
11月19日の議事録をちょっとだけ覗いてみようと思ったら、
ついつい最後まで読んでしまいました。
(とはいえ、特に後半は疲れていい加減です。分からないことも多いし。)

細部を云々できるほど内容を理解している自信はないのですが、
全体の印象として、

倫理問題なんぞどうでもいいから早く法律をアップデートして
国際的な科学研究競争の第一線から落ちこぼれないように
と急ぐ陣営と、

本質的な倫理問題の議論が充分に尽くされていないではないか。
 もっと慎重に
とブレーキをかけようとする陣営とが
せめぎ合いを繰り広げている図。

そして、前者がより強大な力を持ち、
その勝利のシナリオが既にできあがっているんだな、
と感じられる議論だな、と。

この法案がどういうものか、
最もおおまかに分かりやすくまとめられた部分で、
この法案を提出した人たちの考えも正直に出ている部分かと思うので、
Baroness Deechの発言の一部を以下に。

In the scientific field, the Bill confirms the wider use of pre-implantation genetic diagnosis. That is good. I hope that your Lordships will be pleased that the deliberate choice of an embryo that is, for example, likely to be deaf will be prevented by Clause 14. The Bill confirms saviour siblings, no selection of sex for social reasons, and extended purposes for research in embryology, first allowed in the 2001 regulations. That research, once legitimated, put the UK at the forefront of world stem cell research. Interspecies embryos will be legitimated and I think that that is right.

科学の領域で言えば、この法案は着床前遺伝子診断を認めます。これは良いことです。例えば耳が聞こえないだろうと見られる胚をわざわざ選ぶようなことはClause 14で防げますから、上院議員の皆さんは歓迎してくださるでしょう。それから法案では救い主兄弟が認められます。社会的な理由での性別選別は認めません。さらに胚を扱う研究は2001年の規制で最初に認可されましたが、こうした研究の目的をより広く認めます。この研究が合法化されれば、英国は世界の幹細胞研究の最前線に出るでしょう。多種胚が合法化されます。これは正しいと私は考えます。

(お断り)
翻訳の細部や個々の訳語については、たいして深く考えたものではありません。
「多種胚」というのも個人的に適当にでっち上げた訳語で、
要するに人間と動物のハイブリッド胚のことです。
あくまで概要を紹介するための大まかな訳とご理解ください。

なお、上記で触れられているほかにも、
議員らの発言で大きく取り上げられていた問題としては、
生殖補助医療で「父親の存在が必要かどうか」という点があります。
これは独身女性やレスビアンの女性、トランスジェンダーの人が
生殖補助医療によって親になる権利を巡る議論。

それから中絶法の改正の是非。

ちょっと気になったのは、
審議の冒頭の保健省副大臣による法案の概要説明に続いて発言した議員が
産婦人科学会の関係者(名誉会員?)と思われること。



Human Fertilisation and Embryology [HL] Bill -2007-08 の議会での審議については、こちらから

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この問題について
聴覚障害者のブログGrumpy Old Deafiesが取り上げて
優生施策だと批判しています。


この記事へのコメントでは
BBCの議会中継に字幕がないことが問題視されています。
また議会の審議に、聴覚障害者の利益を守ろうとしている人がいないことも。

しかし、聴覚障害については1例として触れられただけで、
このブログに引用されているClause 14は以下のように読めるものです。

「深刻な身体または知的な障害」、「深刻な病気」または「その他、医学的に深刻な状態」を生じる大きなリスクとなるような遺伝子、クロノソムまたはミトコンドリアの異常があると分かっている人または胚が、異常がないと分かっている人や胚よりも選好されてはならない。

聴覚障害だけの問題では全然ありません。
serious(深刻な)という表現の解釈によっては、
どれほどの障害と病気が含まれるかすら分からないのでは?


(”救い主兄弟”については、別エントリーで触れています。)


当ブログの関連エントリーは以下。