「看取りケア・パス機会的適用が問題に(英)・MA州住民投票で自殺幇助合法化ならず(米)」書きました

看取りケア・パス機会的適用が問題に(英国)
日本でも用いられている看取りケアのクリティカル・パス、リバプール・ケア・パスウェイ(LCP)が、英国で大問題になっている。LCPは死にゆく患者の苦しみを極力少なくするべく、エビデンスに基づいて看取りの前後のケアの手順を標準化したクリティカル・パス。2003年に英国で作られて、翌年NICE(国立医療技術評価機構)が推奨モデルとした。
LCPが「裏口安楽死」になっていると問題視する声は09年から上がっていた。同年9月に現場で終末期医療を担う医師らが連名で、デイリィ・テレグラフ紙に告発の手紙を送ったのだ。「NHS(英国医療サービス)では回復の余地のある患者にまで機会的にLCPが適用されて、高齢者が栄養と水分、治療薬を引き上げられ、鎮静されたまま死なされている。機会的に鎮静したのでは回復の兆しがあったとしても把握できない。現場の医療職が思考停止を起こし、注意深く患者の症状の変化を見守ることをやめてしまった。もともとは患者に尊厳ある死をという理念で作られたLCPが、手がかけずに患者を死なせるための自動的な手続きと化している」という、ショッキングな告発だった。
ここ数年、英国では高齢者や障害者が入院した際に、本人にも家族にも知らせず一方的にカルテに蘇生不要(DNR)指定が書きこまれる事例が相次ぎ、家族からの提訴が増えている。そんな中、今年6月にケント大学の高名な神経学教授がロンドンでの医師会講演で「ベッドを空けるため、看護の手間を省くために、まだ生きられる高齢患者がLCPの機会的運用で殺されている」と激しく批判したことから、LCPの機会的適用をめぐる議論が一気に過熱した。メディアでの議論に危機感を持った22のホスピス関連団体は10月18日、本来のLCPの理念と内容を詳細に説明し改めてLCPを支持するコンセンサス・ステートメントを発表。これに対して、デイリー・メール紙は社説で「毎年LCPで10万人をはるかに超える人が死んでいる以上、LCPが患者の死を早めてベッドを空けるために使われているとの疑惑は避けがたい」と反論した。
こうした動きを受け、NHSと緩和医療学会はLCPの実態調査に乗り出すことを決めた。またジェレミー・ハント保健相もNHS憲章改訂の一環として、患者・家族と話し合うことなしに一方的にLCPやDNR指定を決めたり、本人・家族の意向を無視することにブレーキをかける方向性を打ち出した。無益な治療を提供しない医師らの権利は依然として認めつつ、その権利を行使するにあたって「終末期コミュニケーション」を通じて透明性を保障するよう求める趣旨のもの。

MA州住民投票で自殺幇助合法化ならず(米国)
 さる11月6日の米国大統領選挙では多くの州で同時に住民投票も行われたが、ロムニー大統領候補が前知事として州民皆保険をなしとげたマサチューセッツ州では、医師による自殺幇助合法化の賛否をめぐる住民投票の行方が注目された。オレゴン州ワシントン州と同じ尊厳死法を問うものだ。こちらの投票結果も真っ二つだった。開票が進んでも僅差は変わることなく、反対51%、賛成49%で尊厳死法は通らなかった。
この問題は激しい論争となって久しいが、同州医師会と薬剤師団体などが反対を表明した他、直前には大物倫理学者や故エドワード・ケネディ上院議員の未亡人も反対投票を呼びかけた。それらの発言に比べれば地味だが、5月にワシントン州の高齢者施設の経営者がボストン・グローブ紙に書いた手紙が、私にはとても印象的だった。以下のように書いて合法化を食い止めるようMA州民に呼びかけている。
尊厳死法ができて以降、医療職の中には最初から治療など考えず、すぐにモルヒネを持ちだして緩和ケアを始める方が目につくようになっています。時には、クライエント本人にも代理人である家族にも告げずに、独断でそういうことをやられる医療職もあります。
 またQOLが低すぎるから高齢者は治療しないと一律に切り捨ててしまう医療職も見てきました。かつては、たいていの医療職が高齢者のケアに喜びを感じ、クライエントもまたそれに喜びと敬意で応えていたものでしたのに。
 いつの日か、私たちも老います。その時に、私自身は治療しケアしてほしいし、自分の選択を尊重してもらいたいと思います。このような事態の推移に私は心を痛めており、そちらの皆さんが自殺幇助の合法化を止められるものなら、と願っております」

連載「世界の介護と医療の情報を読む」
介護保険情報」2012年12月号