米小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」ガイドライン(2009) 1/5

Ashley事件のDiekema医師が委員長・主著者として執筆したこの論文については
1年前に以下のエントリーで触れました。


その後すぐに論文を手に入れてくださる方があって、全文を読みました。

Forgoing Medically Provided Nutrition and Hydration in Children
Douglas S. Diekema, Jeffrey R. Botkin and Committee on Bioethics
Pediatrics 2009;124;813-822; originally published online Jul 27, 2009;
DOI: 10.1542/peds.2009-1299

現在は、こちらから全文が無料で読めます。

気になる個所があちこちありながら、
なかなかまとめることができずにいましたが、

日本でも、この問題が議論になりそうな気配があるようなので、
改めて、元論文を読み返してみました。



まず、結論部分にまとめられている要点9点の概要を以下に。

1. 安全に飲食できて、それを望む子どもには、口から飲食させること。

2. 医療的に供給される栄養と水分は、その他の医療と異ならず、その他の医療と同じ理由によって差し控えと中止が可能。

3. 医療的に供給される栄養と水分を含み、すべての医療介入を行うか否かの判断は、子どもへの実質利益があるかどうかに基づくべし。

4. 決定にあたって最重要なのは子どもの利益。

5. 医療的に供給される栄養と水分の差し控えと中止が道徳上許されるとしても、道徳上差し控えと中止が必須というわけではない。

6. 永続的に意識と周囲とやりとりする能力を欠いた子どもからは中止してもよい。例えば植物状態の子ども、無脳症児。ただし適切なアセスメントができる専門家が診断すること。

7. 死のプロセスを引き延ばしたり病状を悪化させるだけの場合は中止してよい。例えば最終末期の子ども、数か月を超えて生きることが無理で臓器移植だけが唯一可能な治療という心臓奇形の乳児、重症の腎臓または消化器不全の乳児で親が移植よりも緩和ケアを望む場合。

8. 決定に際して親と後見人を尊重すること。インフォームの必要性と、適切な鎮静と口腔衛生を含む緩和ケアの必要。

9. 困難事例や論議を呼びそうな決定では倫理相談を活用すること。


ここだけを読むと、それなりに理にかなった内容のように思えますが、
本文に書かれていることは、このまとめとは微妙にニュアンスが異なっており、
見逃せない点が多々あります。

以下のように、このエントリーを1とし、
さらに4つのエントリーで本文の内容をまとめてみました。


           
私が特に問題を感じるのは
エントリー2から4の内容に見られる障害児への偏見。

具体的には、著者らが意識の有無に一貫してこだわりながら、
重症障害児の認知能力と表出能力のギャップに全く無関心であること、
(正当化にパーソン論が持ち出されています)

よく読みこんでみると、著者らの基準が一貫していないこと。

それから、私は何よりもここが問題だと思うのですが、
エントリー5の箇所で、米国児童虐待防止法の規定が否定されていること。


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