Diekema & Fost 論文を読む 5:「だから、ちゃんと検討したんだってば」

4月のDiekema&Fost論文の「反論25」で取り上げられているのは
倫理委の検討が不十分だという批判。

具体的には、

・ Ashleyの利益だけを代理する人物が検討過程にいなかった。

(これは小山さんが2007年5月のシンポで会場から指摘された敵対的審理の不在。
イリノイのK.E.J.裁判でも敵対的審理のための法定代理人が任命されました。
「わたしのなかのあなた」でもアナの利益だけを代理する法定代理人が任命されました)

・ より侵襲度の低い選択肢の検討が十分に行われていない。

・ 裁判所の判断を仰がなかった。

いずれも、至極まっとうな指摘なのですが、
それに対するに、まず最初の2点への著者らの反論は、
こんなことしか書けないなら書かないほうが良かったんじゃないかと同情するくらいの稚拙さ。

私は最初に読んだ時に、あまりのバカバカしさに思わず笑ってしまった。

だってね。

These claims are speculative, and quite simply wrong. In fact, the committee did explore less invasive options and did engage in a comprehensive, ethical discussion that included many of the issues Quellette assumes were not discussed and many that she left off her list.

この前後の”反論”の内容は、ぶっちゃけて言えば、

Ashlelyだけの利益を代表する人がいなかったとか、
だから然るべき手続きがとられていないとか
侵襲度の低い選択肢をちゃんと検討していないとか、
だから生命倫理委員会がやるべき仕事をちゃんとやっていないとか
みんなで批判してて、

それはイチイチ的を突いてもいると、そりゃ、ボクだって思うけどさ、でも、
みんな、それは想像で言ってるだけでしょ?

でも、そういうの、全部、ボクたちは、ちゃんと、やったっんだってば。

もっと侵襲度の低い選択肢の検討だって、ちゃんとやったし、
キミたちが指摘している点は、ボクたちだって、ちゃんと検討したんだよ。
キミたちが指摘していないことまで、ちゃんと検討したんだから。

お~きな倫理委員会が長々と議論したんだから、やらなかったはず、ないでしょ。
だから、信じてよ。ね、ねっ。

ウソみたいだけど。
ほんと、この程度なのですよ、Ethics誌に掲載されている、この“学術論文”。
査読って、いったい何なのかしら。

そこまで言うなら、どういう選択肢が議論の場に上げられて、
それぞれについて、どういう利益と害が指摘されたのか、
委員の間で、どういう意見が交わされたのか、
それぞれがどういう理由で却下されたのか、
K.E.J.ケースの裁判所の意見書みたいに、
ぜ~んぶ具体的に述べてみせてごらんなさいよ、と思うのだけど、

聞こえてくるのは、Just believe me!  We did it! (だから、ちゃんとやったんだってば)ばかり。

一体、この、どこが反論、反駁なんだ?

当初の論争でも、Diekema医師はcarefully に検討したんだと繰り返すばっかりで
その具体的な検討内容についてはさっぱり語れなかったことは
2007年7月の段階で既に指摘していますが、2年以上経っても、この人、まだ、同じことをやっている。

つまり「反論25」で取り上げられた3点のうち、
最初の2点については全く反駁不能ということなのでしょう。

3つ目の論点への反論については、
笑って捨て置けない重大な問題が潜んでいるので、次のエントリーにて。