Diekema & Fost 論文を読む 1:倫理委に関する新事実

Diekema、Fost両医師が今年4月に Bioethics誌に論文を書いて
Ashleyケースへの批判に反駁していることを10月1日のエントリーで紹介しました。

手に入れてくださる方があって、その後フルテキストを読むことができました。

大筋としての印象は、
2006年のGunther & Diekema 論文と全く同じで、

例えば、親がAshley療法を望んだ理由は相変わらず都合よく偽っているし、
肝心の倫理委の議論の詳細については相変わらず出してこないし、
当事者の癖に第三者の専門家を装って、評価者の高みからものを言うことで
証明責任を実施者から批判者に転嫁して見せているなど、

2006年の論文でやったとおりのマヤカシを繰り返していますが、

ちょっと面白いな、と思った新情報が
以下の点を中心に、いくつかありました。

1.倫理委のメンバー数が初めて明かされたこと
2.Ashleyに行われたホルモン療法の期間が2006年論文から修正されたこと
3. 病院側の「自己利益」や「政治的事情の絡んだ状況」に初めて言及していること

これらの点について、それぞれエントリーを分けて詳細に検討してみます。

まず、1点目、倫理委のメンバー数が初めて明かされたことについて。

Ashleyの親の要望を検討した倫理委員会に“出席”したのは、
「倫理委のメンバー11人と両親、患者(つまりAshley)そして患者の担当医3名」と。

The meeting was attended by eleven members of the ethics committee, the parents, the patient, and three of the patient’s physicians.

論争から3年近く経ってから、やっと倫理委の人数が明かされたわけです。
しかし、この情報には、いくつもの疑問があります。

まず、なぜ、今まで人数を明かさなかったのか。
2006年初頭の論争時、父親のブログが書いた「40人ものメンバーによる倫理医」が
メディアでもネットでも、2007年5月のシンポでも一人歩きしていました。

シンポでは Alice Dreger氏から
「倫理委のメンバーは40人だったんでしょ?」というストレートな質問まで出ました。
それでも、病院はずっと倫理委のメンバーの数について明かしてこなかった。
なぜ、今まで隠してきたのか。

それは、やはり、あの倫理委にこそ、
触れられたくないAshley事件の真実が隠されているからだと私は考えます。

倫理委のメンバー数についてこちら2007年当時のエントリーを振り返ると、
Gunther医師は「15~20人」、Salonの記事は「18人」という数を出しています。

Salonが引っ張り出した病院内部の反対派からの情報には信憑性があると私は考えているのですが、

Salonが書いていたのは「委員会のメンバーが18人」という話であり、
今回の論文が書いた「その他当事者を入れて18人」ということではありませんでした。

また、Salonが倫理委について暴いた事実で最も重要なのは
そこに部外者が排除されていたという事実です。

今回の論文は、あの倫理委が「特別」と銘打たれていた事実に一切触れず、
あたかも病院の通常の倫理委であったかのように装い続けていますが、

Salonの「18人」という情報が正しいとすれば、
今回のDiekema医師のいう「倫理委から11人」とは、
「通常の倫理委から病院と大学の職員だけが11人加わった」ということではないでしょうか。

それ以外に7名が加わっていた可能性が依然として残ります。

          ―――――――

もう1つ、倫理委の人数については、たいそう面白い箇所があって、
「反論25:Ashleyには然るべき手順が踏まれなかった:倫理委検討は不十分であった」の項目で、

然るべき手順は踏んだと反論しているのですが、

The parents’ decision was reviewed by four separate physicians caring for Ashley and a large multi-disciplinary ethics committee whose primary task was to consider the interests of the child.

ここで、large と、つい書いてしまっている。

メンバーが11人という倫理委が large なワケはないので、
これは、“つい書いてしまった”無意識のミステイクでしょう。

論争当初に父親が「40人ものメンバーの倫理委が承認した」と
正当化の根拠としていた倫理委のサイズについての事実誤認を
Diekema医師らは訂正してきませんでした。

むしろ知らんフリで、その事実誤認を便乗利用して
メディアや世論が勝手に「大きな倫理委が承認したのだから」と言い継ぐのに任せてきた。

その意識が、今回、自分で11人と実際の人数を明かした後にも
つい、ボロッとこぼれ出たミステイクではないでしょうか。

実は、Diekema医師がこれまで繰り返し強調してきたものとして
倫理委の「サイズ」の他に検討時間の「長さ」がありましたが、
今回も「11人」を明かした直後に、やはり「長い議論の後で」と書いています。
(after a lengthy discussion)

しかし、これまでのGunther医師の発言やSalonの記事などから
倫理委が実際に議論に費やした時間は1時間であることが明らかになっています。

Ashley自身の利益を代弁する人物がいなかったという重要な指摘に対するに、
「大きな倫理委が長々と検討したのだから、然るべきプロセスを踏んだのだ」と
倫理委のサイズ(でも実は11人)と議論の長さ(でも実は1時間)でもって対抗する。

倫理委のサイズも議論の長さも、
なんら、その倫理委の結論を正当化するものではないことくらい、
Diekema医師もFost医師も、仮にも生命倫理学者なら知らないわけではあるまいに

そんな子ども騙ししか繰り返せないのは、
その1時間の倫理委の議論の「具体的な内容」を彼らが決して明かせないから、に他ならない。