バイオ企業と結託した葬儀屋が遺体から組織を採り放題

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2006年、米国で大きなスキャンダルになった事件。

私が英語ニュースをチェックし始めたのは2006年6月のことでした。
USA Todayのこの記事に気づいたのは、その直後。まだ何も知らなかったので、
この奇妙なレントゲン写真は、一生、鮮明に記憶に残るほどに衝撃的なものでした。

ニューヨークの検察局が、ある事件の記者会見で公開している、
この珍妙なレントゲン写真、一体なんだと思いますか?

バイオ企業と結託した葬儀屋がホールの裏でこっそり脚を切り取り、
その代用でパイプにズボンをはかせて棺に入れていた遺体のレントゲン写真――。

一味にこっそり臓器や組織を抜き取られた遺体が何百もあったというのです。

私は、この異様な写真に目を奪われて、この事件を調べることによって初めて、
世界って実はこんなにも怖い場所になっていたのか……と
ものすごい衝撃とともに発見したような気がします。

このブログを始めたのは、その半年後のAshley事件があってからなので
この事件のことは、うっかりアップしていませんでしたが、
こちらの事件で思い出していたところにたんたんさんのコメントのおかげで
そうだ、この事件もアップしなきゃ、と、その重大性を改めて考えたので、

介護保険情報」誌2008年6月号に、
まだドキドキしながら書かせてもらった連載第2回目の一部を以下に。

葬儀場で遺体から
人体組織を採りたい放題

最近は自宅での葬儀など滅多になくて、荘厳なセレモニー・ホールを備えた葬儀場で執り行われることが多くなった。あの葬儀場の奥に実は解剖室があって、そこで遺体が密かに切り刻まれていて………などと真顔でいったら、「まさか」と一笑に付されることだろう。しかし、まるで出来の悪いB級ホラーのようなこの話。まぎれもなく現実に起こった事件なのだ。

一連の報道によると、主な舞台はニューヨーク。主犯は、かつてコカインの使用で医師免許を返上した経歴を持つ元口腔外科医である。当時のコネを生かして、その後バイオ企業を設立した元口腔外科医は、葬儀屋と共謀のうえ、葬儀場奥の「解剖室」で親族に無断で遺体から組織を採取していた。

去年の秋に事件が発覚するまで犯行は約5年間にわたり、被害にあった遺体は何百にも及ぶという。採ったのは皮膚、骨、腱、心臓の弁などなど………。心臓死前後に採らなければ使い物にならない臓器と違って、こうした人体組織は死後48時間以内の採取でよいらしい。一体分の組織から7000ドルもの利益を得ていたという報道もある。

事件の発覚で、埋葬された遺体を掘り起こしてみたら、下半身が跡形もなく採り去られたものまで出てきた。棺に入れてもバレないように、脚の代わりの配管パイプがネジで骨盤に取り付けられていたという。検察当局は主犯を含む4人の起訴を発表する記者会見で、この遺体のレントゲン写真を公開している(USATODAY 6月12日)。なんとも奇妙かつ不気味な写真である。

そして問題を深刻にしているのが、元口腔外科医らは親族の同意書を偽造しただけでなく、組織の安全性のスクリーニングを行わなかったことだ。年齢と死因を都合よく偽った書類をつけて、安全が疑わしい人体組織を加工会社に持ち込んだのである。それらの組織から加工された医療製品は、今のところアメリカ国内とカナダに流通したものと見られている。

FDA(食品医薬品局)は事件報道を受けて、汚染の可能性のある医療製品の回収を命じたが、膝や歯のありふれた外科的治療も含め、治療に使用された場合には、梅毒のほか、HIVや肝炎に感染する恐れまである。

カナダでは被害に遭った患者が3月に集団訴訟を起こした(canada.com 3月23日)。また、汚染した医療製品が流入していないとされるオーストラリアでも、疑わしい治療を受けた患者に関係機関が個別に確認をとったり(THE AUSTRALIAN 6月6日)、ニュージーランドでも医師が個人的に購入した商品に不安の声が上がる(ニュージーランドのニュースサイト stuff.com6月23日)など、事件発覚から1年半経って、波紋はなお広がっている。

それにしても、この事件のことを調べていて、あるキーワードで検索をかけたところ、ヒットした中に弁護士事務所のホームページが並んでいたのには、びっくりした。こぞって事件の概要を詳細に語り、「もしもあなたが被害に遭っていたら、訴訟はぜひとも当方で。ご相談、ご連絡はこちらまで」などと呼びかけている。全貌が手軽に分かりやすいので、事件に興味のある方には、むしろこちらの弁護士事務所のサイトをお勧めしたいくらいだ。

そういえば、こういう弁護士のことを英語では ambulance chaser という。「霊柩車の追っかけ」が起こした醜悪事件に、「救急車の追っかけ」が、ヨダレを垂らして群がっていく──。それも、どこやらアメリカン・ホラーではなかろうか。

介護保険情報」2006年8月号
「世界の介護と医療の情報を読む」 ② 児玉真美
 P.82-83