胚の細胞周期にかかる時間に特許とった大学とバイオ企業に非難ごうごう(米)

直前エントリーで紹介した記事を読んだ時に、
一緒に目についた5月の記事。


スタンフォード大学とバイオテク企業 Auxogynが
IVFに使用されているヒト胚の細胞周期の最初の3段階にかかる時間のデータに
特許を申請し、米国特許局がこれを認めたことから、
新たな国際的な論争が起きている。

ヒト胚の細胞分裂の最初の3段階にかかる時間を調べて、
そのデータによって子宮に入れる最適な胚を選別すれば、
体外受精の成功率が3倍にも上げられる可能性があることが、
最近の英国の研究で明らかになった。

しかし、米国の特許が認められてしまえば、
この新技術が広く使われにくくなる。

批判の中心人物である世界的胚培養士のJacques Cohen 医師は
Reproductive BioMedicine Onlineで、

「胚で起こる自然のプロセスの一部を所有するのは
すでに高価な医療技術のステップをいちいち過剰に商業化しようとする
許しがたい行いである」と書いている。

Auxogyn社では、
特許の対象は自然のプロセスそれ自体ではなく、
胚の発達を測る方法を対象にしたもの、と主張。

しかしCohenは、

There will be no end to what corporations may claim to own. A few years ago it was the gene sequence, now it is embryonic growth. Next year it may be one’s heartbeat or the synapse.

企業が所有権を主張する対象は際限なく拡がっていくでしょう。
数年前までは遺伝子配列だったが、今では胚の発達に所有権が主張される。
来年あたりは、人の心拍数やシナプスが対象になるかも。



それにしても、こういう「やったもん勝ち」をやるのって、
やっぱり米国なんですね……。


記事が5月25日のものなので、
乳がん遺伝子変異 BRCA1とBRCA2の特許を巡って
Myriad Genetics社の特許を最高裁が認めるかどうか、
注目されていた訴訟について言及されています。

これについては、その後の6月14日に
ヒト遺伝子の特許は認められないとの判決が出ています。



で、結局のところ、
やっぱりこういうことなんではないか……と頭はここへ戻る ↓
事業仕分けの科学研究予算問題から考えること(2009/12/12)

で、希望がないなぁ……と、やっぱり考えてしまうのも、
09年12月12日に書いた、これ ↓

今後も長い年月に渡って加速度的に進むはずの
科学とテクノ研究競争に「勝ち続ける」ために必要な予算規模なんて、
きっと誰にも試算できないんじゃないかとも思うし。

私が知りたい「どれほどの資金が必要か」というのは金額ではなく、
今でも、地方の産業は成り立たなくなり、まともに働いても食えない人が沢山出てきて、
医療も福祉も教育も、どんどん崩壊している状況で、
今後、勝ち続けるために必要な予算を確保するとしたら、
日本国民の生活が例えば具体的にどういうものになれば賄えるのか、ということ。

まずは足手まといの障害者と高齢者には死んでもらって、
さらに働いているのに食い詰めてしまう人にも死んでもらって、
それで医療費と社会保障費がいくらかは浮くにしても、それで勝ち続けられるのか、
その程度で高度化する一方の国際研究競争に追いつけるとも思えず、
本当はもっと必要になってくるんじゃないのか、ということ。

仮に国際競争に勝ち伸びて隷属国になることを避け続けることが可能なのだとしても、
いま世界規模でアフリカと一部アジアの国で起こっているようなことの縮図として、
日本国内での都会と地方の格差や、また国民間の財力・能力による格差、さまざまな差別が
もっと酷薄な形をとって現実になっていくのではないのか、ということ。


でもって、それって結局のところ、
「誰も幸福になれない世界」ではないのか、ということ――。