生きている兆候を知りつつ鎮静して、あわや臓器摘出:Burns事件

これまで重症意識障害からの“回復事例”についてはいろいろ拾ってきたし、
その中には“回復”というよりも“誤診”じゃないかと思われるような事例もあり、
また恐ろしいことに臓器提供が決まった後で“回復”したケースまであって
考えさせられてきたのですが、

いよいよ決定的な“誤診”事例が出てきました。

米国NY州、シラキュースのSr. Joseph病院で
2009年に「死んだ」と診断して家族の同意の元に臓器摘出の準備に取り掛かったところ、
手術室に運ばれた患者が目を開けて「死んでいない」ことが判明した事例について
この度、そのケアの不適切に対して罰金6000ドル、

病院が事後にまともに調査しなかったことに対して罰金16000ドル、
合計22000ドルが課せられた、というニュース。

問題となった患者はColleen S. Burnsさん。
41歳(いつの時点での年齢かは不明)。

Xanax、Benadrylその他のオーバードースで救急搬送され、
カルテには「心臓死」と記載されているとのこと。
家族から臓器提供の同意が取り付けられた。

奇妙なのは、臓器摘出予定の前日、
看護師が反射テストをやって、足の裏を指でなぞったところ、
足をギュッと縮めた、という記録があること。

人工呼吸器を装着しつつ、鼻が膨らんで自発呼吸の兆候が見られたり
唇や舌も動いていたというのだけれど、

たいそう不思議なことに、これらの観察が行われた20分後に
看護師はBurnsさんに鎮静剤のアチバンを投与したという記録が残っている。
(が、医師の記録には鎮静剤も症状の改善も出てこない)

しかし、これらの兆候は臓器摘出の準備が進められる間も消失することはなく、
2009年10月20日、手術室に運び込まれたBurnsさんが目を開けたので、
摘出は中止された。

何が起こったのか、
本人にも家族にも説明はなかった。

これほどの事態が起こっていながら
病院側は検証も原因究明も行わなかった。

州保健局は
Post –Standard紙からの質問を受けて、2010年3月に調査を開始。

保健局の抜き打ち監査を受けて、病院はようやく調査に着手したが、
それでも、その調査はおざなりのものでしかなかった、と州の報告書は指摘する。

Burnsさんは心肺停止になってもいなければ不可逆的な脳損傷を負ってもおらず、
生命維持の中止を決定する基準を満たしていなかったにもかかわらず、
病院はBurnsさんの身体から薬の影響が抜けるまで待って十分な検査をすることなく
生命維持の中止を決定した、とも。

こうした事実関係を報告書で読んだ専門家は
患者が生きている兆候を確認していながら、
どうしてナースは鎮静剤を打ったのか、といぶかる。

「それでは患者は沈静によって無反応になってしまう。
鎮静したり鎮痛剤を与えなければならないなら、
その患者は脳死ではなく、臓器を摘出すべきではない」

すごいのはこの記事の最後の1文で、

The hospital also was ordered to hire a consulting neurologist to teach staff how to accurately diagnose brain death.

同病院にはさらに、スタッフに脳死の正しい診断方法を指導するための相談役として脳神経科医を雇うことが命じられた。


ちなみにBurnsさんは無事に退院したが、
その後2011年1月に自殺。



思い出すのは、以下の英国のスティーブン・ソープ事件。


重鎮静の状態で脳死と判定して家族に生命維持停止と臓器提供への同意が要請された。
家族が拒否し、外部の脳外科医に診断を依頼したところ、
脳死ではないと判断。重鎮静を解いてみたら意識が回復した、という事件。

このエントリーには脳死臓器移植の問題に詳しいMoritaさんから
貴重なコメントも寄せられています。

また、その他この段階までに拾った
“回復事例”エントリーへのリンクも。