臨床実験データ全公開を求める動き、研究者らから (前)

一番最近では6月28日の
NEJMの前・現編集長による医学研究腐敗の指摘から、日本の「iPS臨床承認」を考えてみたなど、
製薬会社の資金と影響力によって医療のエビデンスがゆがめられている問題については、
いくつもエントリーにしてきましたが、

29日のNYTに
標題のような内容の大変興味深い記事がありました。

薬の治験データは
都合のよいものだけが発表されるなど製薬会社に操作されているというのは
1990年代から2000年代にかけて、指摘されてきた、
薬の効果と安全性のエビデンスそのものを揺るがす大きな問題で、

当ブログでも、以下のエントリーなどで
この問題についての指摘や警告の話題を拾ってきました ↓
「製薬会社は倫理観をもって」と英当局(2008/3/31)
製薬会社の舞台裏についてArt Caplan(2008/4/18)

その後の数々のデータ隠ぺいや改ざんのスキャンダルについても、
あれこれと拾ってきていますが(次のエントリーの文末にリンク)、

09年にはハーバードの医学生たちが
講義で薬について云々する教授陣に対して
製薬会社との金銭関係のディスクロージャーを求めている、というニュースも ↓
Harvardの医学生が医療倫理改革を起こそうとしている(2009/3/4)


今回は
ジョンズ・ホプキンスのポス・ドクの Dr. Peter Doshiなど、研究者らの中から、
製薬会社に対して治験の全データの公開を求める運動が始まっている、というニュース。

Dr. Doshiがこうした運動に加わることになった、
インフルエンザ治療薬タミフルの効果と安全性検証を巡る経緯が大変興味深い。

なにしろタミフルと言えば、
私たち一般人でも「インフルエンザだったら48時間以内にタミフル」くらいは
普通に頭に入っていたりするほど有名な薬だし、

突発的な行動のリスクが一時ずいぶん騒がれたものの、
どうやら「しっかり観察しましょう」で収まったみたいだから
それなりに効果も安全性も確認されているのだとばかり……。

まさか、実はまだ十分に検証されていないなんて……。

そのタミフルの効果と安全性の検証をめぐるDr. Doshiたちの物語が始まるのは、
豚インフルエンザの大流行に世界が震撼した2009年の夏。

ローマ在住の英国人内分泌医、Dr. Tom Jeffersonは英・豪両政府から
Roche社のタミフルについて文献の検証を依頼され、
コクラン共同計画と協働でその作業を行った。
そこにDoshiも求められて参加した。

しかし、「そもそもタミフルは効くのか?」の検証は考えた以上に困難で、
4年後の現在も、NYTには「まだ決定的な答えは出ていない」と書かれているのだけれど、

2009年には世界中の企業や政府がタミフルを備蓄し、
それだけで2009年の売り上げ30億ドルのうちの約6割を占めたのだから、
タミフルの効果は保健問題としてのみならず経済問題としても重要な問題だった。

チームが検証を始めて間もなく、
コクランのウェブ・サイトに衝撃的な投稿がある。

日本の小児科医、林敬次氏がコメントで、
合併症予防効果を肯定した「カイザー研究」では行われた10の臨床実験のうち、
2つの実験データしか公表されていないことを指摘し、
8実験でのデータが公表されていないのに、どうして効果があると結論できるのか、と
疑問を投げかけ、残りのデータの公表を求めたのだった。


次のエントリーに続きます)