慈善資本主義に新たなネーミング、「人道帝国主義」:インドのポリオ”撲滅”のウラ側

なるほど「人道(主義的)帝国主義」……。
慈善資本主義に新たなネーミングが登場――。

News Junkie Postというサイトに
関連のたいへん興味深い記事が2本あったので、このエントリーとで。


人道主義帝国主義:権力志向の慈善』と題されたこちらの記事は冒頭、
2月28日、前ローマ法王が辞任したのと同じ日に
ニューヨーク市長のブルームバーグ氏が
自らの財団Bloomberg Philanthropiesとゲイツ財団との
協働をスタートさせたことに触れて、
宗教の慈善に企業の慈善が勝利した時代の象徴である、と。

そこで提起されているのは
当ブログがかねて指摘してきたのと同じ問題で、

With the world’s thirteenth richest man Michael Bloomberg on board, the Bill & Melinda Gates Foundation represents an unprecedented and rapidly growing collaboration of the world’s wealthiest men, including Carlos Slim, Bill Gates, Warren Buffet, and Cyrus Poonawalla: all of whom have devoted most of their lives to acquiring their billions. Does this signal late-onset altruism or something else?

世界で13番目の金持ち、マイケル・ブルームバーグを理事に迎え、

ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、
これまでに例のない速度で成長する世界の最富裕層の共同体となっており、そこには
カルロス・スリム、ビル・ゲイツ、ウォレン・バフェット、サイラス・プーナワラと、
生涯をかけて憶万の富を手にしてきた顔ぶれがずらりと並ぶ。

これは果たして、遅ればせながらの愛他行為なのだろうか
それとも何か別のものを意味するのだろうか?


著者は
19世紀の終わりから20世紀にかけて
ロックフェラーやカーネギーが悪どいショーバイで巨万の富を築いて
robber barons(盗人男爵)とあだ名されつつも
慈善家として歴史に名前を残したことに触れて、

例えばバフェットが2006年にゲイツ財団に310万ドルを贈ったことを始めとして、
(その後バフェットは資産の半分をゲイツ財団に提供したんじゃなかったかと思うんだけど)

The collaboration of today’s super rich in their philanthropy is a kind of humanitarian imperialism meant not only to rehabilitate their names but also impose their views on a global scale.

今日のスーパーリッチの慈善での協働は一種の人道帝国主義であり、
自らの名前のイメージアップのみならず、
自らの考え方をグローバルな規模で強引に実施させていくことを狙ったものである。


それには彼らからの資金提供を享受するNPRなどの大手メディアも一役買って、
ゲイツ財団の“ポリオ撲滅運動”が途上国で展開されていく。



この記事によると2001年段階で
栄養改善と水の衛生状態改善によってポリオは世界中で500例までに減少していた。

そこで始まったのがゲイツ財団のワクチンによるポリオ撲滅運動。

これまでにインドだけで2011年に80億ドルが費やされてきて、
ゲイツ財団はインドをポリオ撲滅のモデル国として称賛するが、
実際にはポリオの症状のある感染症は47500例もあり、
死亡率は2倍に上がっている。

ところがこの感染症は「非ポリオ急性弛緩性マヒ(NPAFP)」と名付けられ、
ポリオとしてはカウントされない。

NPAFPの発症には
活性ポリオ・経口ワクチン(OPV)を飲んだ回数が関係しているとされ、
インドでは10回以上もOPVを飲んでいる人が多数いることがNPAFP増加の要因とされる一方、
米国軍の兵士へのOPVは一回のみとされている。

また、不活性ポリオ・ワクチン(IPV)も開発されているものの、
コスト高のために先進国でのみ使われており、
途上国のワクチンは未だにOPVのままでNPAFPの発症を招き続けている。

こちらをポリオとしてカウントしなければ
2012年のポリオの発症は世界で291例で、
それらは反ワクチン運動が激しい急進的なイスラム圏に集中している。

パキスタンでは12年12月にポリオワクチンを子どもに飲ませていた
医療職(医療職ではなくボランティアだったと思うのですが)が殺害される事件も。
パキスタンの人々はOPVを飲むことを拒否している。

この後の1節、私にはちょっと理解不能ですが、
人造のポリオ・ウイルスが2002に作られて以来ポリオ撲滅は不能となったのだから、
限られた資源を不可能な撲滅に費やすのは非倫理的である、とする
Neetu VashishtとJacob Puliyelの以下の論文に言及している。
http://www.issuesinmedicalethics.org/202co114.html

(私がこれまで読んできた情報では
ポリオ・ウイルスは素早い遺伝子変異でワクチンへの抗耐性をつけるため、
いくらワクチンを開発しても撲滅は不可能と言われている、と理解していたので
上記論文未読の現在、人造ウイルス云々の個所が意味不明)

この記事の結論パラグラフで興味深い個所は以下。

The Bill & Melinda Gates foundation also seems determined to control cholera, malaria, and other presumed scourges with vaccines of questionable efficacy. It hardly matters that clean water and other simple measures might work better than vaccines. When one is rich and powerful enough to control all the discourse about a vaccine project and smooth its path from the laboratory to publication, to approval by WHO and purchase by UNICEF and heads of state, one is always right.

ゲイツ財団はコレラマラリアその他の病気を、
効果のほどが定かでないワクチンでコントロールすると意を決しているようでもある。

清潔な水やその他のシンプルな方法の方が
ワクチンよりも効果がある可能性は歯牙にもかけない。

金と権力があれば、ワクチン計画に関する言論の一切をコントロールし、
研究機関から論文発表までのプロセスを牛耳り、WHOの賛同を取り付け、
UNICEFや各国首脳に買わせることもできて、

そういう人物の言うことは常に正しいことになる。

Humanitarian Imperialism: Charity for Power
News Junkie Post, March 10, 2013


5枚目の写真は、
ソフトクリームの帽子をかぶって大きなボウタイをしたビル・ゲイツ
片手に「モンサントのトウモロコシ種子」を持ち、
もう一方の手に「ワクチン」と書いた大きな注射器を持って、
国際会議を思わせる背景を前にこれらを売り込んでいる図。


【17日追記】
2011年5月8日の補遺
私自身がこの動きについて「慈善帝国主義」という表現を使っていた。

Bill GatesとWarren BuffetがGiving Pledgeなるキャンペーンでちょっと前から世界中の大富豪に資産の半分を慈善に差し出せ、と呼びかけているのは知っていたけど、その呼びかけに応えようかという人たち69人ほどがアリゾナ州に結集したとのこと。非公開で。:「世界のスーパーリッチ慈善資本家クラブ」の初会合ね。とはいっても、Gatesは去年の6月にもBuffetや何故かOpra Winfreyなど6人と完全非公開で集まって、世界人口抑制などを話しあっている。あれはこれの予行演習だったのか? いよいよ慈善帝国主義が本腰を入れて世界を席巻していく準備を始めている……。
http://lezgetreal.com/2011/05/buffett%E2%80%99s-billionaire-philanthropy-club-meets/
http://www.google.com/hostednews/ap/article/ALeqM5gVXN_8nZYKE0TwRPMa9w6pNHrM9A?docId=45130f0fc84547c890fcd16ffb557b5f