Natureに掲載のジョンズ・ホプキンスの研究に不正? 自殺者や怪メールも

癌治療の創薬といえば、
科学とテクノの国際競争が最も過酷になっている領域だろうということくらいは
いくら素人の私にだって想像はつくのだけれど、

その領域で有名な基礎研究の信憑性をめぐって
なんとも恐ろしい話がWPに出ている。

その研究とは、昨年Nature誌に掲載となった
“Studies Linked to Better Understanding of Cancer Drugs”

その去年2月21日に、
ジョンズ・ホプキンスが国立台湾大学と一緒に出したリリースがこちら ↓
http://www.hopkinsmedicine.org/news/media/releases/cell_energy_sensor_mechanism_discovered

リリース冒頭によると、
細胞がエネルギーを蓄えたり、蓄えられたエネルギーを利用するかどうかを
いわばサーモスタットのような役割をしているプロテインがどのように決めているか、
そのメカニズムを詳細に解明した研究。

WPの記事によると、
遺伝子が相互に作用するメカニズムをイースト菌のゲノムで解明して、
その方法論を人間のゲノムに適用した研究とのこと。

で、もちろん、どの研究にしろ、
論文発表までに長い年月がかかっているわけなのだけれど、
この論文の背後では、背筋が冷えるような出来事が起こっている。

当初、その研究チームの1員だったDaniel Yuanが、
自分が所属する研究チームのデータ解析の方法に疑問を抱いて
同僚にメールで初めてその疑問を投げかけてみたのは2007年のこと。

データに問題があるとの懸念は分かると言いながら、
結果を出すことを急ぐあまり、誰もまともに取り合おうとしなかった。
なんせ論文発表のメドというものもある、研究助成をゲットするためには
一定の期限までに一定の成果を出さなければならない。
グラント分捕り合戦だって年々、熾烈化しているのだ。

Yuanはチーム内で疑問を呈しているうちに降格となり、
その年の12月には研究所をクビになってしまう。

翌年の12年2月、
BoekeとLinらによってNature誌に発表されるや、研究は高い評価を受けた。

しかしYuanは一読して仰天する。
イースト菌のDNAでも問題があったはずの解析方法が
人間のDNAにも適用されていた。

彼は自分でデータをチェックし、計算をやり直してみた。
つじつまが合わなかった。

論文は878の遺伝子の相互作用を発見したと報告しているが、
確認できたのはほんの一握りだった。閾値そのものが低く設定されて、
明らかに実際よりも多く「ヒット」したことにされていた。

Yuanは7月にNature誌の編集者に疑問を提示する手紙を出し、
自分の疑問を掲載するよう求めた。

Nature誌からの指示で、論文著者にも自分の手紙を送った。
著者らは対応するから時間を2週間くれと応えた。

その2週間の期限が切れる直前、
Boekeからもう2週間、期限を延期してほしいとのリクエストがあった。

その翌日、
既に台湾大学に移籍していたLinが
同大研究室で筋弛緩剤などを腕に注射して自殺しているのが発見される。

そして、Linの遺体が発見された数時間後、
Yuanの元に、Linのメルアドから送信されたメールが届く。

タイトルは「お前のハッピー・エンド」
文面は「Linは今朝、死んだ。思い通りになって、さぞ満足だろうな」

その後、
当初は彼の疑義を掲載すると言い、
何らかの訂正が行われるだろうと言っていたNature誌からは、
なんの動きもなかった。もちろん何の訂正も行われていない。

一方で、論文は既に11回も引用されている。

Linは死んでもBoekeら他の研究者らに対応できるし、その責任もあるはずだ。
Yuanがそういって8月末にNature誌に問い合わせると、
9月末になって「実験が現在行われているところで
恐らくは訂正記事も書かれているところなのでは」として
Boekeからの対応待ちだと返答があったが、
その後も何の訂正も行われていない。

WPがジョンズ・ホプキンス大学に問い合わせると、
訂正は既にNature誌に提出済みで
「ご質問にはその刊行によってお応えします」。

Yuanはグラントを出している連邦政府にも問い合わせてみた。
それに対する政府the Office of Research Integrityの回答がすごい。

「これらの疑惑についてはジョンズ・ホプキンス大学が調査中と心得ます」

また、論文の責任者はLinであり、
Deceased respondents no longer pose a risk
「責任者が死んだ以上、もはやリスクはありません」

              ――――――

WPの記事によると、
昨今、科学論文「撤回エピデミック」が起こっているという。

なにしろ、ある調査の結果では
1975年と比べて、不正を理由に撤回される論文の数は10倍なんだとか。

この調査を行った研究者は、その理由として
デジタル画像の時代には、データは簡単に操作できることのほかに、
成果主義やグラントをもらう競争の熾烈化からのプレッシャーがある。

そのため、大学もジャーナルも小さな間違いは認めるが、
既に出版された研究の本質に関わるような大きな誤りは
なかなか認めようとしない傾向がある。

しかし、訂正の対応が遅れれば、それだけ
その誤った成果に基づいて他の研究が進められていくことにもなり、

納税者のカネは無駄に使われたままとなる。



ちなみに、
こういう基礎研究の話ではなく薬の治験データの話では、

New England Journal of Medicineの編集長が
製薬会社の資金が牛耳っている医学研究そのものが
崩壊の危機の様相だと語っている ↓