ファーマゲドン: オピオイド鎮痛剤問題のさらなる裏側

オピオイド鎮痛剤の過剰処方の問題については、
以下の記事を始め、いろいろと拾ってきていますが、


続報といってもよい記事が大晦日のWPにありました。



上記10月のエントリーで拾ったProPublicaの記事の主なポイントが
オピオイド鎮痛剤の処方拡大のロビー活動を行ってきたAmerican Pain Foundationの背後に
いかに製薬会社の資金力・影響力が働いているか、という点にあったのに対して、

今回のWP記事のポイントは、
OxyContinの製薬会社Purdueや販売会社などがいかに論文で治験データを隠ぺい・操作し、
FDAの諮問機関にいかにそれら企業と金銭繋がりのある研究者が含まれて、
オピオイド鎮痛剤の依存リスクは非常に小さい」との通説が形成されていったか、

それによって、いかにガンや急性疼痛から慢性痛への処方拡大が誘導されてきたか、
そして、現在いかに多くの患者が依存に苦しみ、時に命まで落としているか、という点。

ざっと、事実関係を中心に以下に。


連邦政府の統計によると
処方鎮痛剤への依存症は実はコカインやヘロインへの依存患者よりも既に多く、
全米でほとんど200万人。

オピオイド鎮痛剤の処方数は過去20年間で3倍に急増している。

この記事は、その増加を後押ししたのは
a massive effort by pharmaceutical companies to shape medical opinion and practice
(医学的見解と医療実践に手を加えて形成しようとの製薬会社による多大な努力)
だったと書く。

例えば、年間20人が薬物のオーバードースで命を落としていて
一時は人口8万人の地域にピル・ミルが9軒も林立し
昨年は住民一人当たりにつき100回分以上のオピオイド鎮痛剤が処方・販売されたというポーツマスでは
保健師がこの状況を「ファーマゲドン」だ、と。

(「ピル・ミル」とは、カネ儲けのために処方麻薬でショーバイする医師や診療所のこと。
「ピル・ミル訴訟」についてはこちらのエントリーに)

もともと90年代までは
医師らはオピオイド鎮痛剤の処方には慎重で、
ガン患者と急性疼痛の患者以外にはほとんど処方されていなかったが、
少しずつ規制が緩和されていき、

1995年のPerdueによるOxiContin発売で一気に処方が急増。
2000年代に入るとオーバードースや依存症者の報告も急増した。

2003年にNew England Journal of Medicineに発表された論文は
依存リスクを最小限と報告したが、

この論文の主著者はその後
オピオイド鎮痛剤処方のあり方を先頭に立って批判しているとのこと。

また上記を始め、当時の「離脱症状はまれで依存リスクは小さい」との知見形成に影響した論文を
WPが調査したところ、

16の治験のうち、5つはPurdueの資金によるもので、2つはPurdueの職員との共著、
2つはPurdue以外のオピオイド鎮痛剤の製薬会社の資金によるものだった。

発表後、Purdueが離脱症状を否定する根拠として繰り返し使った論文では
離脱症状が疑われるケースを削除したデータがPurdue側から研究者に渡され、
研究者らはPurdueから受け取ったデータを分析しただけだったとか。

その論文では、100人中離脱症状があったのは2名と報告されたが、
内部文書によると11人が起こしていた。

(現在はだいたい50%が依存を起こすと理解されている、と専門家)

FDAが2002年に諮問したパネルでは
10人の外部委員のうち5人がPurdueとの金銭関係がある研究者だった。
そのうちの一人はその後オピオイド鎮痛剤の「宣教師」役を演じた後悔を語って
次のように発言している。

「プライマリーケアの聴衆が……オピオイドを使いやすくなるような説明を創ろうと……」

「主な目的はオピオイドスティグマを解消することだったので、
我々はしばしばエビデンスはなおざりにして……」

「今では依存症や本人の意図しないオーバードース死が多発し、
ここまで影響が広がってしまって、私のような人間が推進した処方拡大が
部分的にはこうした出来事を引き起こしたと思うと、まったく恐ろしいです」

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前にも書きましたが、
これまで向精神薬や骨減少症や心臓ステントなどを巡って当ブログが拾ってきたスキャンダルと
まったく同じ構図がここでも繰り返されている――。

読めば読むだけ、それが確認されるばかり――。

例えば、最近の糖尿病治療薬Avandiaのスキャンダルでは
製薬会社資金での治験が増えて論文の治験データの信憑性が揺らぎ
医学研究そのものが崩壊の危機に瀕している、と
New England Journal of Medicine の編集長自らが認めている ↓



【追記】
今日のNYTにも OxiContin関連のニュースあり、
近くOxiContin と Opana のジェネリック薬が発売されるにあたり、
濫用防止のため砕きにくく溶けにくくするなど錠剤の工夫を求められてきたPurdueなどが
同様の工夫が十分でないと主張してジェネリックの発売を阻止しようとしていたが失敗したらしい。
「儲けのためじゃなく、国民の安全のためだ」と主張していたらしいけれど、
上のWP記事を読んだ後でそれを言われても……。
http://www.nytimes.com/2013/01/02/health/drug-makers-losing-a-bid-to-foil-generic-painkillers.html?_r=0






あと、この問題を一貫して調査し報道しているProPublicaのシリーズの一つがこちら。↓
(ここにも鎮痛剤関連のスキャンダルが出てきています)
ProPublicaが暴く「ビッグ・ファーマのプロモ医師軍団の実態」(2010/11/2)



【米不整脈学会、高血圧学会を巡るスキャンダル関連エントリー】これもGrassley議員の調査で明らかに
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1つの病院で141人に無用な心臓ステント、500人に入れた医師も(2011/5/15)