ある作家が体験的に推理する「ADHD診断増加のカラクリ」

Bronwen Hruskaという作家が
息子が8歳から数年間に渡ってリタリンジェネリック薬を飲まされた体験をNYTに書いている。

きっかけは息子が3年生の時に教師との面談で示唆されたこと。

その時の会話がたいそう興味深い。

「ほんのちょっと薬を飲めば
ウィルにとっていろんなことが楽になりますけどね」
リタリンのことですか?」
「驚くほど効くのを私たちは見てきてます。
ウィルは先生たちから叱られていますけど、
お行儀がよくなれば先生たちにも誉めてもらえるようになって、
自信も持てるし、学校生活そのものが楽しくなりますよ」

でも著者は、
息子は8歳相応のエネルギーがあるだけだと考えているので

「あの子はADHDじゃありません。薬を飲ませるつもりはありません」

とたんに先生はショックを受けて
「そんなことしなさいなんて一言だって言ってませんよ。(たった今そう言ったくせに)
そんなことをいうのは法律で禁じられているんですから。
ただ、専門家のアセスメントを受けてみられたら、というだけで」

で、著者は息子をクリニックへ連れて行った。
そして驚く。ADHDには臨床検査なんて、ない、ということに。

面接とアンケート(それも学校の先生の捉え方重視)をいくつかやって、
そういうものからの主観的な印象で医師が診断をつける。

なるほど、「問題を探し始めたら、そりゃ問題も見つかるわ」。
なるほど03年から07年の間、毎年5.5%も診断件数が増え、
2010年には3歳から17歳の子どもの8.4%、520万人が診断されているはずだわ。

著者の息子は医師の面接の間はちゃんと集中できた。

すると「他の場面では集中できる子どもでも
気が散る状況になると集中できにくいことがある」として、
結局ADHDを診断されてしまい、リタリンジェネリック薬が処方される。

ただし、家にいる時や休みの日には飲まなくてもよい。
学校へ行く日の朝に1錠、お昼休みにスクール・ナースのところへ行って、もう1錠。

著者はネットでいろいろ検索して副作用について知って驚いたり、
家庭医に相談したりしながら、不安を抱えながらも
本当にADHDなんだったら治療するしかなかろうと思うようになっていくが、

ある日、学校から帰ってきた息子が
読書の時間に友達と話をするのを忘れてしまった、
すっごく静かになって、本の中に入っちゃったみたいだった、というのを聞いて、
疑問に思う。

いい生徒になるための薬なのか――?

また学校ではほとんど何も食べず、家にいるとおなかをすかせるので
調べて見ると、その薬は食欲抑制剤としても使われていた。

4年生から飲み始めた薬が5年生になったら効かなくなり、
医師は処方量を何度か上げて、さらに薬を2回も替えたが効果はなかった。

で、著者は、ふと気がつく。

4年生の時の担任はウィルのことを気に入ってくれていた。
5年生になってからの担任は、どうも男子の扱いがわかっていないという評判らしい。
もしかして去年、薬が効いたとみんなで思いこんだのは、
あれは実は薬の効果ではなかったのでは……?

5年生の途中で、テレビ番組をきっかけに
本人がきっぱりと薬を飲むことを拒否。

それから5年。
ウィルは現在、成績優秀な高校生として学校生活を満喫している。

……We might remind ourselves that the ability to settle into being focused student is simply a developmental milestone: there’s no magical age at which this happens.

……落ちついて集中して勉強できるようになる能力は、発達の指標にすぎない。この年齢でそれが起こります、みたいな魔法の年齢があるわけじゃない。

著者はまた、教育界では「正常」という言葉が
「平均的」から「飛びぬけている」という意味へとシフトしていないか、と疑問を呈する。

記事の最後は、以下。

If “accelerated” has become the new normal, there’s no choice but to diagnose the kids developing at a normal rate with a disorder. Instead of leveling the playing field for kids who really do suffer from a deficit, we’re ratcheting up the level of competition with performance-enhancing drugs. We’re juicing our kids for school.

We are also ensuring that down the road, when faced with other challenges that high school, college and adult life are sure to bring, our children will use the coping skills we’ve taught them. They’ reach for a pill.

「年齢よりも発達が早い」ということが新たなノーマルになったのだとしたら、正常に発達している子どもたちは障害を診断されることになる。実際に注意欠陥のある子どもたちに配慮して子どもたちの居場所を工夫する代わりに、私たちはパフォーマンス・エンハンスメント薬で競争のハードルをあげている。勉強のために子どもたちを薬漬けにしているのだ。

そして同時に、この先、高校や大学、成人してからの生活で間違いなくやってくる困難に出くわした暁には、必ずや私たちが教えた通りに対処しなさいよ、とそのスキルを教えているのだ。薬に手を伸ばす、というスキルを。

Raising the Ritalin Generation
NYT, August 16, 2012


“Accelerated”という著者の小説が近く刊行されるとか。
読んでみよう、かな……。