ケアホーム入所者に無断でDNR指定、NHSトラストが家族に謝罪(英)

英国で一方的なDNR指定が問題化してきていることについては、
去年1年間だけでも、以下のエントリーで取り上げていますが ↓



また新たにケア・ホームに入所している男性のカルテに
無断でDNR(蘇生不要)指定が書きこまれていることに気付いた家族が抗議し、
NHSトラストが謝罪するという事件があり、

NHSではケア・ホームの入所者のケアに当たるGPらに対して
DNR指定に関する規制とガイドラインを遵守し、
指定に際しては本人や家族と相談するよう呼びかけた、とのこと。

(この記事でも上記の去年9月の訴訟に触れられています)



男性は77歳で、ロンドン南部の
身体障害があり要介護状態の人を対象としたケアホームに入所している。

米国ラスベガス在住の娘が面会に訪れた際に、まったくの偶然から
カルテにDNR指定を見つけ、抗議。

NHSトラストが調査を行ったところ、
ホームでは男性にはDNR指定の決定に参加できるだけの能力がないと判断したと説明。
しかし家族はこれに強く反論。

娘は米国で言語療法士として働いてきた人で、
CPRのリスクについては十分に承知しているが
「父はターミナルなわけでも進行した病気があるわけでもなく
QOLも良好で、ハッピーに暮らしています」と。

このケースについての詳細は
ホーム側もNHSトラスト側も患者のプライバシーを理由に語らないが、

とりあえず指定は撤回され、
NHSトラストが家族に謝罪した。

また今回の問題提起にも感謝の意を表明。

ただし、DNR指定自体は
今後また復活する可能性はある、とも。

トラストのトップの感謝の言葉がなかなかに意味深で、

Whilst it is important that doctors do not place the burden o f decision-making on close relatives, you have made us aware it is important to try and involve relatives even if they live abroad and are only able to visit their family member infrequently.

医師が近親者に意志決定の重荷を負わせないことは重要ではあるものの、例え家族が海外在住で頻繁には面会に訪れられない場合であっても、親族に関わってもらうよう試みることも重要だと、あなたは私たちに気づかせてくれた。

もう一つ、このケースに関する説明もさらに意味深といえば意味深で、

In a care home setting, CPR has a very small chance of successfully returning the patient to their previous state of health. If successful, there is a high risk that the patient will suffer rib or sternum fractures as well as internal organ injuries. If consciousness is regained, there is a risk that patient will be left with brain damage and not regain their pr-morbid level of health.
Because of these concerns, it is considered a mark of good practice that consideration is given to whether patients requiring long-term residential care and support would benefit from a CPR attempt in the event of a cardiac arrest. These decisions need time and careful consideration and are best not left to an emergency situation.

ケアホームの環境では、CPRによって患者を以前の健康状態に戻せる可能性は非常に低い。CPRが成功したとしても、ろっ骨や胸骨骨折、内臓損傷の高リスクがある。意識が戻ったとしても、脳損傷を負い以前の健康レベルには戻らないリスクがある。
こうした懸念から、長期的な入所施設ケアを必要とする患者が心臓マヒを起こした際に心肺蘇生を試みることの是非については慎重に検討することが good practice の証とされている。こうした決断には時間と慎重な検討が必要で、緊急医療の判断のままに任されるべきではない。


なんとなく、患者個々の状態よりも
長期的に入所施設ケアが必要な患者かどうか、の方が
心肺蘇生の是非の判断において重視されているような印象が……?