欧州司法裁判所、「ヒト胚を使った研究成果に特許認めず」を堅持

EUが1998年に出した生命技術に関する指針では、
商業的搾取が道徳に反する、特に“ヒト胚を産業または商業目的に利用した”ものには
特許は認められない、と規定する一方で、

当時はまだ技術そのものが開発されていなかったために
ヒト胚の定義はない。

また欧州議会も2005年に決議において以下のように明記し、
胚性幹細胞を創り出すことにはその廃棄が前提されている以上、
ヒト胚を利用した研究に特許は認められないとしている。

"the creation of human embryonic stem cells implies the destruction of human embryos and... therefore the patenting of procedures involving human embryonic stem cells or cells that are grown from human embryonic stem cells is a violation".


それに対して、ドイツの科学者 Oliver Brustle が訴訟を起こし、
受胎から14日後からのものが胚であると定義したうえで
自分が研究に用いる胚は受胎から5ないし6日後のものなので
これらの規定の対象外である、と主張していた。

この度、欧州司法裁判所は
ヒトに発達していくプロセスが開始される以上、
受胎した瞬間からヒト胚とみなされるべきである、とヒト胚を定義し、

98年の指針から以下の部分を引用して、
人体試料( human biological material)は尊厳を持って扱われるべきである、と判断した。

Although it seeks to promote investment in the field of biotechnology, use of biological material originating from humans must be consistent with regard for fundamental rights and, in particular, the dignity of the person.

バイオテクノロジーの分野への投資を推進する必要はあるものの、
ヒトに由来する身体試料には基本的権利と、特に人としての尊厳の尊重が必要である。


この判決によって、EUでの研究が出来なくなるわけではないが、
EU内では特許が取れないため、研究者らは成果を商業ベースに載せることができない。

科学者らからは、
せっせと基礎研究ばかりをやっては成果を外国に持っていかれ、
EUは外国での成果を逆輸入するしかないじゃないか、と怒りの声が上がる一方で、

ドイツ医師会会長は
生命を商業的思惑から守るものとして、この判決を歓迎。

成人幹細胞と万能幹細胞なら倫理的に許容範囲だ、と。



英米の手段を問わない「科学とテクノの簡単解決バンザイ文化」と
その背景にへばりついた巨大利権をめぐる熾烈な国際科学研究競争がある以上、

こういう判決は「国際競争力を損ない」「国益を損なう」ものだ、
という見方があるのは十分に想像できるし、

それだけにEUって面白いなぁ……と。

で、英国はこの判決を受けてどうするんだろう……?

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この件について、BioEdgeがOxfordのAnscombe Bioethics Centerのディレクター
Dr. David Albert Jonesにインタビューしている ↓
(私は読めていません)



ざっと自分のブログ内を検索してみたら、
去年8月24日の補遺に、米国でも以下のような話があった。
これは特許ではなくて、ブッシュ時代に散々モメた連邦政府の研究助成の話だけど。

連邦裁判所が、ヒト胚を壊す研究への政府の助成は法律違反、と判断。どうする、Obama政権?
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/23/AR2010082303448.html?wpisrc=nl_cuzhead
http://www.nytimes.com/2010/08/24/health/policy/24stem.html?_r=1&th&emc=th