「ウチの責任になるから」と餓死希望の老夫婦を施設から民間住宅へ(米)

英国で厄介な訴訟が起きたなぁ……と思っていたら、
米国ニュー・メキシコ州でも、なんともゲンナリな事件が起こっていた。

夫のArmondさん、92歳、妻のDorothyさん、90歳の
Rudolph夫妻は、それぞれ、いくつもの慢性病を持ち、そろそろ認知症気味でもあって、
一緒にAssisted Living施設(ナーシング・ホームよりも自立度の高い人向け)で暮らしてきたが、

いろんな病気と付き合いながら、このまま弱っていって人の世話になるのは耐え難い、
自分で死ぬ権利があると考えるに至って、夫婦そろって断食に入った。

今年1月のことらしい。

ところが断食3日目に施設の職員に自分たちの考えていることを話してしまったために、
慌てふためいた施設側は911に入所者の自殺企図として通報。
夫婦はその翌日には施設から退所させられ、民間住宅に移されてしまう。

夫婦はその住宅で計画を続行し、
1週間後に夫が、その翌日に妻が亡くなったという。

「終末期についての本人の意思を施設の運営者みたいな他者の意思が超えるなんて
そんなの、非人道的だ」、施設で暮らす高齢者は自分の終末期の権利が侵されるなんて
ちっとも知らないまま暮らしている、と

息子のRudolphさんは C&Cと一緒に
Peace at Life’s Endキャンペーンに乗り出す、とのこと。

施設側はコメントを拒んでいるが、
もしも夫婦の言う通りにさせた場合に
施設側にはネグレクトを問われる可能性があったので
「法的な懸念もあって退所という手段に出たのだろう、
夫婦のどちらにも経管栄養を正当化できるような病気がなかったことも
施設側としては苦しい判断になったのだろう」と専門家。

Elderly Couple Who Refused Nourishment Evicted From Retirement Home
International Business Times, August 18, 2011


いや、しかし……自分の施設で餓死自殺されても困るといって、
食べず飲まずで死のうとしているのが分かっている人を民間住宅に連れて行って、
「ここなら誰の責任にもならないから、どうぞ」って、そんな……。

でもって、そんなの酷い話だから、そういう目に遭う人がなくなるように、
誰でも年をとって死にたい人には、死んでもいい権利を認めて
さぁ、やっぱり安楽死の合法化を……って、そんな……。

んでもって、こういうことが起こると、必ずそこにはC&Cがいる……ときて、

もう、いったい、何をどう考えたらいいのか、ワケが分からなくなってきた。
ただ、もう、わちゃくちゃでござりますがな……って感じがして。


それにしても、実際に連れ出したのは一体だれなんだろう?

911は通報を受けて、どのように対応したんだろう?
まさか、911が夫婦の自殺企図を知りながら民間住宅へ運んじゃいけないのでは?
かといって、施設にだって夫婦を力づくで民間住宅へ移す権限があるとも思えないけど?
その民間住宅って、誰が見つけてきた、どういう性格の住宅?
息子はこの一連の事件の展開にどういう役回りだったのか?

「どうしても食べないというならウチには置いておけません。出て行って下さい」
「わかりました。出て行きます」

そういうやりとりがあれば、退所も民間住宅への引っ越しも
一応は本人意思ということにはなるのだろうし、
たぶん施設側はちゃんと書類も揃えているのだろうけど、
でも、これって、そういう問題なの?

なんだか不思議なことだらけの事件――。

じわ~っと不気味に感じられてくるのは、
「死の自己決定権」が長々と議論されることで、多くの人の頭の中で、
一定の年齢だとか一定の障害像の人の場合には「死は自己決定権」……という考えが
暗黙の了解として既に広がってきているんじゃないかなぁ……ということ。

どうしても死にたいと言うなら
あなたのような年齢と状態では、まぁ、理解できないわけでもなく
そりゃ、死ぬのは本人の勝手です。どーぞ、どーぞ。

ただ、それはあくまでも自己責任で、他人に迷惑をかけずにやってね。

そういう空気――。

【21日追記】
この事件で、自発的安楽死合法化への声。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/9690

【25日追記】
NYTに記事。「終末期の選択肢を広げる活動をしている」C&Cから、餓死は合法的で“良い死に方”ができる自殺方法であり、要介護状態になって施設に入るくらいなら、こちらを選ぶのが尊厳を守る選択だと言わんばかりの解説がされている。
http://newoldage.blogs.nytimes.com/2011/08/24/deciding-to-die-then-shown-the-door/

Wesley Smithが上記NYTの記事が施設は餓死自殺を認めろという論調になっていることに対して反論している。
http://www.firstthings.com/blogs/secondhandsmoke/2011/08/24/assisted-living-facilities-should-not-be-forced-to-allow-suicide-by-self-starvation/