脳幹出血で全身まひになった男性が「死ぬ権利」求め提訴(英)

英国で、また大きな自殺幇助合法化訴訟が起きた。

脳卒中で全身マヒ状態に陥った男性(46)が
死ぬ権利を主張し、提訴。

仮名でMartinと称する男性は、3年前に脳幹出血で倒れた。
動かせるのは目とわずかに頭のみ。

コミュニケーションはNimbus3という意思疎通機器が
文字を見つめるMartinさんの視線によって
ゆっくりと単語を形成し読み上げ、文章にしていく。

脳卒中の6カ月後からずっと本人は死にたいと望んでいるが、
自分では自殺することもDignitasに赴くこともできない。

妻のFelicityさん(仮名)は
夫の気持ちは理解できるし、もしも死ぬのなら傍にいたいとは言うものの、
夫を愛しているし、自分は人として誰かの自殺に手を貸すことはできない、と。

そこで、訴訟によって死ぬ権利を訴え、
人を雇ってDignitasへ連れて行ってもらう、もしくは
英国内で栄養と水分を拒む決断をし
医師にその苦痛を取り除くケアをしてもらうことの
いずれかを可能に、と望んでいる。

英国のこれまでの自殺幇助合法化議論の流れでは
Debbie Purdy訴訟に次いで大きな節目となりそうな裁判であるため

非常に多くの記事が出てきている。

中には以下のGuardianのように、
早々と「この訴訟で英国でも自殺幇助が合法化されることも」などと
先走ったタイトルを打っているものも。

Guardianは、この事件を機に
DPPのガイドラインの非常に偏った個所だけを紹介する記事を書いたり、
さっそくに記者を送って本人にインタビューさせるなど、
BBCなみの合法化ロビーになったのかというくらい
なにやら力が入っている。


Martinさんへの取材ビデオはこちら ↓
Assisted suicide: why I want the right to die - video
The Guardian, August 18, 2011

09年のDPPのガイドラインについて、
「美しい夫婦愛」の写真つきでPurdyさんと一緒に取り上げているのが、こちらの記事 ↓
The law on assisted suicide
The Guardian, August 18, 2011


その、もはや合法化ロビーであることを多くの人が疑うことのないBBC
Martinさんの弁護士の解釈を用いるという非常に微妙な表現で、
現在のDPPのガイドラインは家族の手助けを得られない人への「差別」だと書き、

たったそれだけのことで
「自殺幇助ガイドラインめぐる“平等”を求める男性の闘い」とタイトルを打つ。

一応、最後に障害者アドボケイトScopeの
これが認められたら現在の弱者への法的保護が弱まってしまうとの
懸念のコメントを引用してはいるけれども、

それを否定して見せるかのように、締めくくりはMartinさんが
Guardianの取材時に一文字一文字目で見つめることで語った以下の言葉。

「(批判する人たちは)自分のような暮らしをしてみればいい。
何も分かっていないくせに。
こんな人生は生きるに値しないんだ」



もともと英国の現状については
「自殺幇助がDignitasへ行ける財力のある人だけの特権になっており
差別だ」という議論は、ずいぶん前からありました。

合法化ロビーの次のステップの論法は、
ガイドラインでは幇助してくれる人を自力で見つけられる人しか
自殺幇助を受けることができない。これは自力で探せない人に対する差別である。
この差別を解消するためには、ガイドラインみたいな小手先ではなく
やはり合法化に踏み切るしかない」になりそうですね。