「“身勝手な豚”の介護ガイド」 3: “専門家の世界”に心が折れないために

いくつか、「よくぞ取り上げたね、勇気あるよ、アンタ」と、
肩でも叩きつつ盛大な賛辞を送りたい気分になる天晴なテーマの中で、
「お役所の世界」について書かれていることが結構面白かった。

ここで著者が「お役所の世界 Officialdom」と呼んでいるのは
私の個人的な感覚では「いわゆる“専門家”というもの」にも重なる。

(お医者さんが冷たくて無神経に思えるのは、
「医師だってOfficialdomの人だから」と著者は十数行を割いています)

なんせ、お役所とか専門家について書かれていることの概要を
これまた私自身の勝手な言葉でまとめてみると、


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お役所には期待できない。ぜんぜん、できない。

最初に介護者になった時には、
こんなサービスもあります、あんなサービスもありますって、
人の期待を煽るようなことばっかり聞かされて、本気にしちゃったけど、
ほんと、バカ見て終わった。

そんなもの、どこにもなかった。
みんなも、もう経験していると思うけど。

介護者になって、真っ先に学ぶのは、
「頼れる人なんかどこにもいない。自分はひとりだ」ってことだった。

ただでさえ家を空けられない介護者だというのに、
わざわざお役所まで行って、さんざっぱらワケの分からない書類に記入させられて
サインさせられて、それで何かになるのかと思ったら、なんにもならない。

申請したし受け付けてもらったけど、待てど暮らせどサービスも介護用具も
何にも届かない……って、みんな経験済みだよね。

レスパイトだって、制度上はできることになっているし、
介護者アセスを受ければ、あなたはレスパイトの適用になります、て話なのに

(英国の介護者アセスメントについてはこちらに)

なんで、実際はこんなに利用できないの?
やってるところが、まず、見つからないし、
見つかったら、いっぱいで何カ月待ちだったりもする。

あれはさ、
砂漠を歩き続けてヘトヘトの人に「もうちょっと行くとオアシスがあるよ」と言えば
そいつはさらに歩き続けるのと同じで、介護者にも「休める」という希望だけチラつかせて
心が折れそうな介護者に介護を続けさせる策略なんだ。きっと。
どこまでいってもオアシスなんか蜃気楼のままなのに。

だから、お役所は当てにならない。
あいつら、本当は支援するつもりなんて、ない。
本当は、少しでも予算を浮かしたくて、介護者や障害者をバカにして
心の中では「べぇー」なんてベロ出していたりするんだ、ぜったい……

と、つい考えたくなる気持ちは、ボクたち、みんなに、ある。

でも、本当にそうなのかな。ちょっと考えてみよう。
ボクたちが“子豚”の介護をできなくなったら困る人がいる。
もちろん一番辛い目に遭うのは“子豚”だけど、国だって困るはずだよ。

英国政府はボクたちに介護を続けてもらいたいと思っているはずだ。
そのための制度も予算も、一応用意してある。十分じゃないけどね。
介護者支援法もあるし、介護者にはアセスメントを受ける権利も保障されている。
申請すれば、介護者手当ももらえる。これまた手続きは面倒だけどね。

一人一人のお役所の人も、まぁ、いろいろな人がいるのは確かだけれど、
大半の人は、それなりに真面目に仕事と取り組んでいるんだと思う。
じゃぁ、なぜお役所はこんなに役立たずのくせに冷たく見えるのか?

ボクのとりあえずの説は、混沌説。

決して、個人的にボクたちがバカにされていたり、
見捨てられていたりするんじゃなくて、国としても地方自治体としても、
それなりに助けようとはしているんだけど、お役所も、とりあえず、いろんなものが足りない、
予算も人もノウハウも、いろんなものがね。システムは大きく複雑なのに。
それで、いろんなことがうまく流れなくて、混沌としてしまう。
誰かの悪意とか、怠慢ということじゃなくて。
そういうことなんじゃないかなぁ。

え? じゃぁ、どうすればいいかって?

うん。問題はそこだよね。
ボクとしては、諦めないこと、ブチ切れて終わったり投げやりにならないこと、をお薦め。

必要なモノやサービスは、必要なんだと、言い続けること。

どんな対応をされようと、どんなにアタマに来ようと、
大事なのは、あなたの自尊心ではなく、モノをゲットすること。そう念じてみて。

大事なのは、自尊心やプライドではなく、モノ・サービスをゲットして
“子豚”とあなたの生活を今よりも快適で楽しいものにすること。そう言い聞かせてみて。自分に。

易々とは傷つかない自分を保って交渉し続けるには
「自分は無職のケアラーに過ぎない」みたいな卑屈さとは縁を切り、
誰にも替わることのできない仕事をしている「私はケアラーです」と胸を張ろう。

そして、ケアラーとして”子豚”のために必要なものを調達する”プロ意識”でもって、
お役所の人と堂々と向かい合おう。

そして介護のプロフェッショナルとして「リフトがいる」、「レスパイトがいる」と求め続けるんだ。
何度でも、誰にでも、どこへいっても、「いる!」「いるんだぁ!」って、
言い続けてダメなら、叫ぶ。怒鳴る。時には机でも叩いてドラマチックに。

大事なのは、諦めずにしつこく求め続けること。

そうするとね、
不思議なことに、どこかで誰かがひょいと現れて道が開けたりする。
思いがけない別のところから救いの手が差し伸べられたりもする。
そんなことって、本当にあるんだよ。

だから、諦めないこと。

特にレスパイトは、絶対に、何が何でも、あきらめちゃダメだよ。
どこにも見つけられなくても、お役所がそっけなくても、
さらには“子豚”自身がイヤがって抵抗しても、
レスパイトだけは「やらない選択肢はない」

これは介護の鉄則だと、しっかり覚えておこう。

いいかい。選択は2つしかないんだ。Break or you break.
ブレイク(休息)するか、あなたがブレイクする(壊れる)か――。

だから、いいね。
レスパイトだけは、ゼッタイに、何が何でも「いる」と求め続けるんだよ。
お役所にウンザリしたら、ほら、ボクの混沌説を思い出して。