「“身勝手な豚”の介護ガイド」 2: あなた自身をもう一人の”子豚”に

“身勝手な豚”たちが介護している相手は
当たり前ながら様々な病気や障害の持ち主で、年齢も性別も違って、多種多様。

高齢者だとか、様々な障害のある人だとか、障害児だとか、そのすべてに
失礼のないよう政治的に正しい表現を心がけるだけの技量も余裕もないので、と断って
著者は、介護される立場の人を“子豚”と総称する。

一応、著者なりのこじつけはあって、
Person I Give Love and Endless Therapy to (私が愛と際限ないセラピーを与える相手)の
それぞれの最初の1文字を繋げると、Piglet(子豚)になるとはいえ、
著者自身も、こんなのは苦し紛れのこじつけだというのは分かっている。

主役は介護者である“身勝手な豚”なのだから、
その人が介護している相手は一応みんな“子豚”ということにさせておいてね、というのが
まぁ、この本の中の、お約束というわけ。

イラストもふんだんに使われていて、そこでは
“身勝手な豚”のイニシャルSP入りのTシャツを着た大きな豚が
車イスに乗った“子豚”と一緒に描かれている。

最初の何章かで書かれていることを
これまた私自身の勝手な言葉で、以下に大まかにまとめてみると、


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介護者としての自分に嫌気がさしたり、そういう自分に罪悪感を覚えて
自分は何てイヤらしい“身勝手な豚”なんだろうと煩悶しているのは
あなただけじゃない。

身近な人の介護を背負ってしまった人間なら
誰だってそんな気持ちの中でぐるぐるしている。
決して、あなた一人じゃない。

だって、誰かが障害を負って介護が必要になったからといって
いきなり、心の準備も介護のノウハウもないまま、
ボク達は自分の人生を途中で放りだすしかなかったんだもの。
こっちにだって、やりたいことはいっぱいあったのに。

それに、プロの介護者なら給料はもちろん有給休暇があって、
8時間が終われば家に帰って休めるし「規定により、それはできません」とも言える。
雇用者がさせちゃいけないことが決まっている。彼らは法律で守られている。

だいたいプロの介護者なら最初に研修で教えてもらえる知識と技術を
ボクたちケアラーには誰もちゃんと教えてくれないのは、一体どういうわけなんだ?

プロの介護者に保障されている諸々を考えたら、
なんてフェアじゃない働き方をさせられているんだろうと、唖然としてしまうじゃないか。

それに加えて、介護生活てな、いつまで続くか分かりはしない。これは恐ろしいことだ。
やっと解放される頃には自分の人生はもう取り返しがつかない段階かも……。

そんな不安を考えたら、どうしても「自分は犠牲になってる」って感じ、あるよね。
それ、仕方ないでしょ。実際、たいていの介護者はそう感じるんだから。

だから、そう感じるあなたは“身勝手な豚”なのではなく、
本当は、ただの平均的なフツーの介護者――。


いったい何だって自分は毎日毎日こんなことをしているんだろう……って、
介護者はみんな、時にふと手を止めて考えこんでしまう。そして気持ちが沈むんだ。

なんで介護しているのかといえば、
まぁ、たいてい表向きは「愛情から」ということになってる。

でも実際には、お金とか親せきとの関係とか、義務感や責任感や、いろいろ絡んでいるし、
正直、いろいろそれぞれ複雑で「理由なんて分からない」のが本当のところだよね。
なにしろ放っておけないから、気が付いたら、こうなっていた……。
実際は、たいてい、そんなもんでしょ。

だから介護していると、あれこれと心の中にストレスがたまって悩ましいし、
どうにかならないかと考えるから、こんな本も手に取ってみたりするんだけど、
そういうあなたが今現在、放り出すことなく介護を続けているのも
どうにかならないかとヒントを求めて本を読んでみようとするのも、
本当のところ、愛がなかったらできないことなんだ。

だから、基本、やっぱり愛があるからやっていることなんだよ。
だからこそ、そんな介護者であるあなたは、本当は
もうちょっと“身勝手な豚”を心がけるくらいでちょうどいい。

ホンモノの“身勝手な豚”になりきれるような人だったら、
この本をここまで読み進んできたはずもないからね。

だからこそ、本当は介護しているあなた自身だって大切にケアされるべき人なんだ。

言っておくけど、これは介護のハウツー本じゃない。だから、
この本を読んだら(たぶん何をしたって)たちどころに、自己犠牲を払って尽くす介護者に生まれ変わる……
なんてことは金輪際、ない。

この本で、福祉制度を利用するための実用的ガイドや
日々の介護の具体的なノウハウが見つかるわけでもない。

ただ、介護者同士として、一緒にいろいろ考えてみない?

言っちゃ悪いけど、
障害があって介護が必要な人を尊重する介護のハウツウなら
世の中には掃いて捨てるほど出版されている。

この本が書いていることは、ただ一つ。
介護者のこと。介護者のため。それだけ。
つまり、この本のテーマは、あなた――。

あなたが“子豚”をケアするだけじゃなく、
あなた自身をもう一人の“子豚”としてケアするために、
あなたのことを一緒に考えましょう。

これはそういう本――。