エントリーにしたばかりのDiekema「害原則」に新ヴァージョン登場

つい昨日のエントリーに登場したばかりのDiekemaの「害原則」ですが、

なんと、出たばかりの the Journal of Clinical Ethics誌の夏号に、
Diekemaが最新ヴァージョンの「最善の利益論より害原則」論文を発表しているとか。

これまた今朝のエントリーでとりあげたばかりの
「無益な治療ブログ」のThaddeus Mason Popeが反論を書いたとのこと。
お馴染みのブログに両者のアブストラクトが併記されています。

まず、Diekemaのアブストラクトから要旨をさらにまとめてみると、

子どもの医療に親が同意しない場合に最もよく用いられるのは
最善の利益スタンダードであるが、

私見では最善の利益スタンダードは
2つの異なった目的のために使われてきたもので、
実際にはそれらの目的には別のスタンダードが必要である。

最善の利益スタンダードがふさわしいのは
子どもの治療の選択肢の中からいずれかを選ぶ、
親に医療の選択に関するアドバイスをする、
法的意思決定権者に決定能力がなかったり意見の一致がない
の3つの場合で、

親の意思決定権限に州が介入を求める時期の判断には
最善の利益よりも害原則を用いるべきである。


Ouellletteも害原則については
医療が行われない場合には機能するが過剰に行われる場合には合わないと言っていましたが

文末にリンクしたように、
彼は2007年段階ではいずれの場合にも害原則でと考えていた節があるので、
Ashley事件の文脈で考えると、ここへきて、ある意味、方向転換かも……。

なんとなれば、これは

医療職の思う通りに医療を行うべく親を誘導するには
子どもの害よりも利益を優先させることのできる最善の利益論で足りるけど、

医療職の思う通りの医療をやらせない親については
害を最優先する害原則で州に介入させて……って、

要するに、
親がどういう対応をしようと、
「医師の思う通りの医療」を「やる」方向に向かって
都合よく「最善の利益」と「害原則」とを使い分けよう……と
言っているに過ぎないのでは?????

Popeの反論は

Diekemaの主張していることは、
子どもの医療の意思決定で親にアドバイスする(guide)機能には最善の利益論がふさわしいが
親の決定を覆すための、すなわち制約する(limit) 機能にはふさわしくない、ので
特に州の介入時期を見極めるには、すなわち制約する場合には、害原則を使うよう提言している。

が、最善の利益論は、いずれの機能にも効果的に使えるし、
制約する機能にも、害原則は、健全な最善の利益論に勝るものではない。

The Best Interest Standard: Keep or Abandon?
Medical Futility Blog, June 22, 2011


私はAshley事件での「最善の利益」論による正当化に
ウンザリするほどえげつない欺瞞マジックの数々を見てきたので、
Fraderが言っていた「最善の利益論はポルノと同じ、どうにでも解釈は可能」という説に賛成。

(ただし「ポルノと同じ」エントリーの後半は、
私自身がこの段階では全く不勉強だったので理解不十分なまま書いています)

Popeがなんで最善の利益論を支持するのか、
「健全な」の中身を論文では詳述しているのかもしれないけど、
アブストラクトを読む限りでは、論拠がはっきりしない。
ただ、基準を使い分けることのいかがわしさを指摘しているのだとしたら、
その点には賛成。


どっちにしても、
最善の利益論にせよ、害原則にせよ、
「一定の条件を満たせばやってもよい」と最初から前提していることが私は気に入らない。

本当はその前に「条件を問わず、やってはならない」があって然りではないかと、
私はAshley事件の時からずっと考えているし、

Ouelletteが08年と09年と2つの論文で説いていることも、
結局はそういうことだと思うのだけど。


【Diekemaの2007年プレゼン・エントリー】
「最善の利益」否定するDiekema医師(前)(2007/12/29)
「最善の利益」否定するDiekema医師(後)(2007/12/29)

ゲイツ財団の右腕シアトルこども病院所属のDiekema医師には、こういう姿勢もある ↓
「ワクチン拒否の親には他児に害をなす“不法行為責任”を問え」とDiekema医師(2010/1/20)


【Ouelletteの論文エントリー】
Quelletteは、すべてを訂正することが不可能なので放置してありますが、間違いです)
「倫理委の検討は欠陥」とQuellette論文 1(2010/1/15)
Quellette論文 2:親の決定権とその制限
Quellette論文 3:Aケース倫理委検討の検証と批判
Quellette論文 4:Dr. Qの提言とSpitzibaraの所感