ホリエモン収監から「医療施策」不在の「医療産業施策」時代を考えた

昨日、ホリエモンが、かつてのあのマネーゲーム犯罪で
出頭して収監されるというのでメディアやら“支援者”やら、ただの野次馬やらで
大騒ぎになっている様子をお昼のワイドショーで見ていたら、

今まで、以下のエントリーなどで考えてきた
グローバル金融ひとでなし(慈善)ネオリベ資本主義と
「科学とテクノの簡単解決文化」とが繋がっているカラクリについて何となく考え始めて、



特に、日本の「ワクチン産業ビジョンの要点」の怪のエントリーで書いた、
次のようなことが、またあれこれと頭に浮かんだ。

ここ数十年の世界経済や金融での大きく急速な構造変化が起きていること、それが、製薬業界・医療機器業界を中心にした科学とテクノロジーの分野の諸々を、否応なく経済と金融の領域の問題にしてしまっていることなどが、

ずっと医療の中にいて、すべてを医療の中の問題、医療の専決事項として眺め考えてきた現場の医師の多くには、捉えきれていない……という面があるんじゃないんでしょうか。


そんなことを考えながら、でぶでぶのホリエモンをぼや~っと見ていたら
頭に浮かんだことは、

「医療は儲かる」というのは昔から一般常識だった――。

だから、苦しんでいる人を助けられる仕事に、と志す人の中に混じって、
金持ちになりたいから医師になろうと思う人は昔からいたし、
私の中学時代の同級生の一人は「お金がなかったら、
しなくてもいいケンカをしなければならないのが夫婦だから
私は絶対に医者と結婚する」と言い、11歳で既に
それを自分の前半生で最も重要な信条としていた。

でも、たぶん、昔の「医療は儲かる」というのは、
どういう形であれ「医療に直接携わっている人が儲かる」という話だったんじゃないのかな。

そして、医療に直接携わっている人というのは、
基本的に医療に携わるものとしての一定の倫理観をそれなりに持ち、
患者のために働き、自分の生活を犠牲にしたり、時には身を粉にすることも厭わず、
まぁ、儲かる分、それだけの負担も責任もリスクも背負っているよね……という程度には
働きと儲けとのつり合いがとれていた時代だったんじゃなかろうか。

もちろん悪辣なことをやってボロ儲けをする人は
どこの分野にもいるだろうけど、それでも臨床でそれをやってボロ儲けするのだとしたら
その儲け幅だって、それなりの範囲にとどまっていたんじゃないだろうか。

その時代だって企業とつるんで旨い汁を吸う研究者はいただろうけど、
その人たちが懐にするカネの高だって、そういう長閑な時代相応に
やっぱり、それなりだったんじゃなかろうか。

でも、たぶん、IT技術とグローバリゼーションが
金融の世界の仕組みやスピードやダイナミズムを
ごろりと様変わりさせてしまったことで、「医療は儲かる」には
全く別のヴァージョンが誕生したんじゃないだろうか。

医療と直接的な関係などまったくない人たちにとっての
「医療は儲かる」ヴァージョンBみたいのが――。

例えばホリエモンみたいに、
ただ、ある日ある時間に、インターネット上でクリックして
カネを右から左へと何度か移動するだけで巨額のカネを手に入れる人たちが誕生した。

「医療は儲かる」ヴァージョンAでの臨床医の儲けが子どもの遊びに思えるほどの巨額のカネを、
臨床現場など知りもせず、患者に触れることはおろか見ることすらなく手に入れる人たちが――。

そういう人たちには、もちろん
医療を巡る倫理意識なんて面倒くさいものは、ない。

例えば、「着床前遺伝子診断の問題」の話題が出れば、
彼らは多分「ポテンシャルが大きい成長分野だね
今はダウン症が狙い目だけど、ダウン症のニーズはの氷山の一角に過ぎないからね」
なんてことを、したり顔して言うんだ。きっと。

その技術が医療において一体何を可能にし、
そこにどういう問題が潜んでいるのか、なんて興味の外なんだ、きっと。
「倫理問題……ナニそれ?」てなもんかもしれない。

「これこれの新しい薬または医療技術が開発されている、有望である」という話は
「これこれの新しい繊維が開発された。これは当たる」という情報と同じく、
投資行動を決めるための参照情報に過ぎないんだ。きっと。

ある薬の副作用で子どもが死んで裁判になったと聞いても、
それで訴えられた企業の株価がいくら下がるか、ということが最大の関心事なんだ、きっと。

そういう人たちが医療関連の企業の株主さんになって、
ものすごい速度とものすごい規模でカネが動かされ、利益も損失も巨額になった世界は
企業にも、株主を儲けさせるという株主への責務を最も重要な使命として要求していく。

しかもスピーディに。常に成果を出し続けることを。
現場と繋がっていないからこそ哲学的なジレンマや倫理意識からも自由でいられる、
子どもみたいな単純素朴な算術的思考回路で。

短期決戦的エネルギーの使い方を長期持続的に労働現場に求め、強いながら。
現場の人たちを職業倫理と成果&効率とで板挟みにし、ギリギリと締めつけながら。

ホリエモンなんかメじゃないような桁違いのカネを動かせる人たちが大株主になって
多国籍化した医療関連企業に対して発言権を行使していく。倫理意識なんてないままに――。

「医療は儲かる」って、そんなふうに
ビッグ・ファーマや医療機器関連企業やバイオ企業に投資する人たちの、
“モラルも倫理もなき医療は儲かる”ヴァージョンBの話にすり変っちゃったのでは――?


英国政府がビッグ・ファーマに「倫理観を持って」と呼びかけていたのは
2008年のことだったけど、その背景にあったカラクリって
要するに、そういうことだった……?

でも、それから、よもや、たった3年で、
英国政府や米国政府や日本政府の方に「倫理観を持って」と呼びかけたいような
「医療施策」不在の「医療産業」施策の時代に突入してしまうなんて……。