姉への移植のために生まれた妹が、今テレビに出てくることの意味とは?(米)

いただきもの情報で、


上記のビデオのある英文記事。
http://today.msnbc.msn.com/id/43265160



20年前に米国で
白血病の娘のために、骨髄ドナーを探しまわったけれど見つからなくて、
ドナーになってくれる最後の望みを託して、次の子どもを産む決心をした両親が
そんな理由で子どもを産むことの是非を巡って倫理論争のターゲットになった。

生まれた子どもは「両親の願いが通じて」「完全なマッチだった」ので、
姉への骨髄ドナーとなることができた。

その姉と妹がテレビの番組に出て、
姉は全快した喜びを語り、妹は「姉がいて姉の病気があって自分はここにいる」し、
「人の意見は様々だろうけど、私自身は両親に愛されて、この家の子どもで嬉しい」と。

日本語記事を読み、ビデオを見て
いくつか、ぱぱっと頭に浮かんだことを以下に。
(TIME記事は何年か前に読んだことがあるのですが
今回は最初のページしか読んでいません)

・上記日本語記事でもモデルになったとして触れられているし、
サイトの関連リンクの中に映画「私の中のあなた」の公式サイトが含まれているけれど、

アリッサさんのケースは「病気の姉のために次の子どもを産んだら、
親の願いが通じて完全なマッチだった」というものとして語られており、

このケースは
その過程で体外受精と遺伝子診断技術を用いてデザイナー・ベビーとして作られる"救済者兄弟”とは
「何かに利用する手段として子どもを産むこと」の問題以外の倫理性の点で大きく異なっている。
そこの区別はきちんとしておかなければならないと思う。

・ビデオの最後に医師がちょっと気になる発言をしていて、
1度しか聞いていないので言葉通りではないけれど、
「このケースが広く報じられたことで、骨髄ドナーが増え、
臍帯血の提供も進んだ今では、こういうのはすでに過去の話になったけど
みたいなことを言っているような。

・実際にこの医師が言う通りなのだとすれば、
体外受精と遺伝子診断技術によって、胚をたくさん作ってそのほとんどを廃棄し、
デザイナー・ベビーとしてわざわざ救済者兄弟を作る必要も、
実はなくなっている、少なくとも減少している、ということなのでは……? 

・そうなのだとしたら、本当に倫理問題を重視していくとすれば、
”救済者兄弟”を許容していくよりも、臍帯血や骨髄のドナーを増やしていく方向、
骨髄提供の安全性を向上させる方向に向かうべきなのでは?

・では、なぜ倫理問題があることに目をつぶってまで合法化しなければならないのかといえば、
英国のヒト受精・胚法改正法案の冒頭に書いてあったように
「科学とテクノロジーの国際競争で先端を走り続けるため」であって、
つまりは実験として行われる意味がある……ということ?

・そういうことを全部ふまえて、
今、この姉妹がメディアに露出して、
20年前の論争が「美しい家族の愛と絆の物語」として描き直されることの意味とは……?


20日追記】
このケースの時代の技術について以下のご教示をいただいたので追記。

確率が23%(約4分の1)というのは、HLAが完全一致する割合なので、
着床前診断受精卵診断)の中でも(目で見える)染色体ではなく、遺伝子診断が必要。

PCR(遺伝子解析)技術が87年に開発され、着床前診断も90年には報告されているが、
多分、このケースでは、時期的に選択は無理だったと思われる。

羊水穿刺で調べて違えば中絶というやり方も、一応は考えられるが、
さすがにそれは計画していなかったのではないか。

つまり「骨髄移植に必要な”判別”は可能になっていたけど、
胚の”選別”は技術的にまだ可能ではない時代だった」ということ……と私は理解しました。